伝統を受け継ぐ和菓子屋に聞く、食べるアート「上生菓子」の魅力

伝統的な日本グルメの一つである「和菓子」。和菓子の中にもいくつかの種類がありますが、特に美しく印象的なものが「上生菓子」です。見た目は小さな芸術作品のようで、お茶会などでもよく見かけます。今回はtsunagu Japan編集部のライターが日本の文化について深く掘り下げて紹介する「Culture of Japan」シリーズとして、上生菓子の芸術的な世界を探究します。より深い情報をお届けするために、京都の老舗和菓子店「鶴屋吉信」の職人さんにも話を聞いてきました。伝統的な日本の和菓子について興味がある方には、きっと楽しんで頂ける記事になるはずです!

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和菓子ってどんな種類があるの?

「和菓子」は長い歴史を持ち、一般的にはたくさんの種類の日本のお菓子を総称する言葉として用いられています。和菓子を大まかに分類すると、「上生菓子」、「生菓子」や「半生菓子」、「干菓子」などの種類に分けることができます。

「上生菓子」とは、原材料にこだわって作られた口当たりの滑らかなお菓子のことを指します。季節感を表しながら、息を呑むような美しい見た目であることが特徴です。「生菓子」や「半生菓子」はより日常的な和菓子で、口当たりもしっかりしており、見た目も上生菓子と比べるとややシンプルです。また、「干菓子」とは「水分の少ないお菓子」と言えます。固めの砂糖菓子やおかきなど、歯ごたえのある食感のお菓子がそれにあたります。

何世紀にもわたる和菓子の歴史

長い歴史の中で和菓子は進化を遂げ、その種類も増え続けてきました。古くから親しまれてきた和菓子には、果物の甘さを生かしたシンプルなものや、のちに中国の影響を受けて発展する油で揚げたお菓子なども出てきました。日本の食文化が進歩し続ける中で、さらに多くの種類が生まれるのですが、現在の私たちが目にするような、上生菓子などの種類の和菓子は、砂糖が普及する江戸時代頃まで普及することはあまりありませんでした。

現在では日本文化の中でもとりわけ大きな存在感と注目度を誇る和菓子ですが、「団子」や「どらやき」など日常的に食べられるもの以外については、意外と和菓子のことを知らない日本人もいるようです。そのような状況ではありますが、「上生菓子」のような繊細で職人技が光る和菓子は、時の試練を乗り越えて現在にも伝わっています。その芸術的な造形と優しい味わいで人々を魅了し、今後も絶え間なく伝統が引き継がれていくものだと思われます。

目でも口でも楽しめる芸術的和菓子、「上生菓子」

「伝統を引き継ぐ本格的な上生菓子について知りたい」そんな想いを抱えて私たちが足を運んだのは、京都に本店を構える和菓子屋「鶴屋吉信」が東京・日本橋店に構える「TOKYO MISE」という店舗です。今回はこちらで働く熟練の職人の方からお話を伺いました。40年以上技を磨いてきた和菓子職人さんから、上生菓子の魅力を聞くことができましたので紹介します。

「練りきり」と「こなし」とは?

私たち編集部は和菓子が大好きで、老舗の和菓子屋で上生菓子を頂けることに大変うれしく感じていました。しかし、和菓子を大好きではあるのですが、季節を表現する繊細な上生菓子として「練りきり」のことしかほとんど知らなかったのが正直なところです。実際に聞いてみると、季節のデザインを取り入れる上生菓子にはいくつかの種類があり、京都に本店を持つ鶴屋吉信では関西で主流である「こなし」の生地を使用したものをメインに提供しているのだとか。ちなみに、「練りきり」は実は江戸時代に京都で誕生したこなしがのちに東へ広がり、江戸(現在の東京)風にアレンジされたものなのだそうです。

鶴屋吉信は京都に本店がありますが、今回訪問した「TOKYO MISE」は東京にいながら京都風の和菓子が味わえる嬉しい場所です。職人さんは、「こなし」と「練りきり」は見た目も味もよく似ているが、異なる点が少しあるのだと教えてくれました。まず、これら2つの和菓子の名前は主に使われている原料を指しているそうです。両者共に基本は白あん(こしあん)を使っていますが、「こなし」には関西で「上新粉」と呼ばれる米粉を細かくしたものが混ぜられており、軽い口当たりにするために小麦粉をさらに混ぜることで、「練りきり」と比べるとより繊細で柔らかな食感になります。「練りきり」はというと、山芋が加えられたり、甘みを強調するための砂糖などをしっかり入れて作られるようです。

「こなし」と「練りきり」では、食べ方もやや異なると職人さんが教えてくれました。「こなし」は、抹茶の味を引き立たせるために、抹茶の前に(もしくは一緒に)食べることが多く、「練りきり」は飲み物と一緒でも、または「練り切り」そのものだけで楽しんだりもするそうです。

長年愛されている日本の食材で魅了する

上生菓子は基本的に柔らかい材料で作られるので、自在に形を変化させたり、細部を芸術的に細工したりすることができます。上生菓子に入っている主な材料はこしあんですが、こしあんはただ柔らかいだけでなく、あんこの粒感が苦手な人でも楽しめるよう軽い口当たりになっていることが特徴です。小豆や白インゲンからできており、欧米では独特の風味を持つと思われていますが、日本では一般的に甘いお菓子として受け入れられています。

完全に滑らかにするために最もよく使われるのが、白インゲンをペースト状にした「白あん」ですが、あんこには、「こしあん(小豆を滑らかなペースト状にしたもの)」や「粒あん(小豆を適度につぶして豆の粒感を残したもの)」といった種類があります。職人さんによると、豆の皮や粒の食感が好きでない方は、こしあんを使った物を頼むのがおすすめだそうです。もっと食感を楽しみたい方には粒あんがおすすめです。味にも違いがあります。白あんはあっさりとした味ですが、粒あんの方には豆本来の味がしっかり感じられます。

上生菓子の見た目も様々で、表面をこしあんで滑らかに覆っているものもあれば、「牛皮(餅を薄くしたもの)」や「きんとん(こしあんをそぼろ状にしたもの)」などで覆われているものもあります。味に大きな違いがあるわけではありませんが、作り方の違いによる食感の違いを楽しむことができます。こしあんだけで作られたものは、口の中で溶けるように消えていきますが、きんとんで外側が覆われた上生菓子はもう少し食感がしっかりしています。求肥はとても軽い口当たりですが、柔らかいこしあんと比べるとモチモチとした食感を楽しむことができます。

見た目で四季を表現する和菓子

上生菓子は、日本の豊かな自然から着想を得ながら、四季を表現して形づくられるものが大部分を占めます。1つの季節の間に提供される和菓子のバリエーションはいくつかあり、それぞれの季節が織りなす繊細な美しさを描くことが狙いです。季節の上生菓子は実際の季節より少し前に売り出されるので、四季折々の美しさを先取りしながら楽しむことができます。よって、「この季節の上生菓子を味わってみたい」といった希望があれば、その季節の少し前に行ってみるのがおすすめです。旅行を予定しているなら、その時期にどんな上生菓子があるのか調べてみるのもよさそうですね。

私たちが7月中旬にお店に伺った際は、夏の生き生きとした雰囲気を感じられるような花をテーマにしたデザインが3点と、笹の葉にのった「しずく」で視覚的に涼を感じられるデザイン1点の上生菓子が提供されていました。職人さんが花びらを作りだし、注意深く「におい」をつける作業(和菓子に植物の雌しべのようなアクセントをつける作業)などの工程に至るまで、その熟練の技が光っていました。出来上がった上生菓子はこのままずっと眺めていたいくらいとてもかわいらしく、本当に食べるのがもったいないと感じました。

上生菓子には、夏はあじさい、秋は紅葉などといった季節に応じたおなじみのデザインのテーマがあるものの、見た目や味は職人の裁量によって異なることも多いそうです。職人さんの発想やセンスにより、新たな創作が次々に生まれるのです。

日本のお茶会における重要な役割を担う和菓子

伝統的な日本の文化は季節のお祝い事と関連するがことが多いのですが、日本のお茶会も同様に、季節の移り変わりとともに行われます。亭主はお茶会の要素から現在の季節の美しさを伝えたいと思うことが多いため、上生菓子はお茶会を構成する鍵となります。季節感のある表情豊かな上生菓子を提供することで、お茶会に招いたお客さんが季節の美しさと儚さに体験することができるのです。

洋菓子のように甘すぎるということはないものの、上生菓子にもあとを引く甘さがあります。このため抹茶のような、少しより苦みのある飲み物がこの上ないほどよく合います。先ほども説明したように、「こなし」は特に抹茶とともに楽しむことを意図されていて、「こなし」の甘さが口の中で広がることで、その後のお茶の渋みがより際立つのです。日本のお茶会で抹茶が出される前に上生菓子が出されるのはこのためなのです。

上生菓子や抹茶を味わうには、必ずしもお茶会に参加しなければならないというわけではありません。日本各地には、気楽に日本の和菓子を楽しんでもらいたいという場所がたくさんあり、鶴屋吉信もその1つです。

お茶会や茶道では、抹茶や和菓子を頂く順番や食べ方について作法に従いますが、プライベートな時間に和菓子を楽しむ時は、自分が好きなように食べればよいと鶴屋吉信の職人さんはおっしゃっていました。お店や家で食べると時は上生菓子を先に食べても、抹茶から飲んでもどちらでもよく、自分の好きな方法で、自分が楽しめるような方法で堪能してほしいということです。

上生菓子の上手な食べ方

上生菓子は昔から「楊枝」を使って食べられます。楊枝とは、たいてい木や竹などでできた先のとがった細い棒状のものです。上生菓子本来の味を最大限に味わうには、できるだけていねいに生菓子のくぼみに沿って切るといいと職人さんは教えてくれました。原材料やデザインによって切りやすいものもあれば、そうでないものもありますが、もしばらばらになってしまっても、おいしく食べられますからそれほど心配しないでくださいね。

職人さんがもう一つアドバイスしてくれたのは、上生菓子はしっとりした食感が魅力なので、「あまり長い間置いいておかないように」ということです。時間が経つと食感が変わり、和菓子全体の品質が下がってしまうそうです。できたてを食べるのが1番ですから、目の前に小さな芸術品が出てきたら、写真を撮るのにあまり時間をかけすぎないようにして、早めにできたての和菓子を味わいましょう!

鶴屋吉信 ー伝統の上生菓子を現代の人々へ

鶴屋吉信は京都本店をはじめとして、京都や東京にいくつかの支店があります。その歴史は19世紀初期にまでさかのぼり、何世紀にもわたって京都御所や格式高い茶道家など、日本で影響力の大きい和菓子愛好家から支持を得ています。

鶴屋吉信の東京日本橋店「TOKYO MISE」には、お客さんの目の前で作られたできたての和菓子とおいしい抹茶が楽しめる「菓遊茶屋」が併設されています。ここで食べられる上生菓子は職人さんのオリジナリティも活かされ、月に2回ほどその季節を表す上和菓子メニューが変わります。基本的に、4種類ほどの上生菓子の中から好きなデザインを1つ選んで抹茶と一緒に味わうことができるスタイルになっています。

もし上和菓子の世界に興味がわいたなら、鶴屋吉信は最高の場所です。和菓子の繊細さを知り、落ち着いた空間で伝統的な和菓子を味わうことができます。和菓子初心者から熱心なファンまで、どんな人でも温かく迎え入れてくれることでしょう。

日本で最も上品なお菓子の1つ「上生菓子」を味わってみませんか

上生菓子には、日本人が長く愛してきた季節の美しさや繊細さが込められています。見て美しく、食べて美味しく、日本文化を体験するには最高の手段でもあります。日本を象徴するもう一つの味である抹茶とともに、日本文化の真髄を感じられる和菓子を心ゆくまで堪能してみてください。

この記事に掲載されている情報は、公開時点のものです。


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Kim
Kim S.