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日本酒を通して日本の真髄を伝える!ポッドキャスト「Sake On Air」MC ジャスティン・ポッツさんの活動とは

tsunagu Japan編集部がお届けするインタビュー記事シリーズ「People of Japan」では、伝統文化を継承する職人や事業経営者など、熱い情熱を持ちながら各分野で活躍する人々をご紹介しています。この記事のシリーズを読み進めれば、これまでなんとなく知っていたような日本文化をより深く身近に知ってもらえるでしょう。今回ご紹介するのは、ジャスティン・ポッツさんです。世界でも指折りの日本酒通の1人です。世界初、日本酒をテーマにしたポッドキャスト「Sake On Air」の配信活動などを通して、日本酒を親しみやすい存在にするための活動や、地方の食べ物や農業をベースにした観光事業の促進など、様々な活動をされているポッツさんの想いに迫りました。

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天職を求めて

新潟駅にある、豊富な地酒が取り扱われていることで有名な粋なお土産店、ぽんしゅ館でジャスティン・ポッツさんと出会いました。千葉県在住のポッツさんは、郊外と都市の間に強いつながりを築くべく、醸造所や発酵所、食の中心地を求めて、日本各地を頻繁に飛び回っています。新潟県は日本で酒蔵(日本酒の醸造所)数が最も多いため、ポッツさんが最も訪れる場所の1つがここだと聞いても驚きはしませんでした。

ポッツさんが日本へ来たきっかけは、おそらく他の多くの人たちと同じような理由です。大学の交換留学プログラムで日本を訪れ、講師やその他の仕事を楽しみながら、心に火をつけてくれるような未来を探し求めていました。

日本で過ごすうちに、ポッツさんはあることに気が付きます。自分が住んでいる現代の大都市には、自分の好きな食の主要素、つまりその背景にある、食材や生産者、コミュニティとのつながりがほとんどなかったのです。

地方の食文化を求めて今まで知らなかった近隣地域を一つひとつ巡るうちに、食とより深い関係を築きたいと願うようになります。しかし当時はどのようにしてその方法を見つけるのかが分かりませんでした。

ポッツさんの妻の家族は、彼のこの願いに対する答えを示してくれただけでなく、全く新しいキャリアパスへと目を向けさせてくれました。遠方で暮らすポッツさんの新しい家族は、日本の郷土料理を普及したり作ったりと様々なことに深い関わりを持っています。彼らが、長らくポッツさんが切望していた世界への扉を開いてくれることとなり、迷うことなくその道へと飛び込んで行けることになったのです。

ポッツさんは当時従事していたローカリゼーションの仕事を辞め、大阪から東京へと引っ越すと、Umariという地方のブランドや商品を展開することに特化したプロジェクトデザインチームで仕事を始めます。

新しい仕事の一環で、日本中の農家や生産者の元へと出張を重ねるようになり、多くの場合、現地の人たちとより深い関係を築くべく、泊まりがけでさらに足を伸ばしていきました。それこそが次なる大きな飛躍を遂げるきっかけとなるのです。「麹」菌との出会いです。

ポッツさんは、自分の好きな日本の飲食物の多くが、それが郊外であっても都会であっても、味噌、醤油、酒などといった麹菌を使った発酵を経て作られた調味料によって、作られたり味付けをされていることに気が付きます。

それまでもこのような料理に出会う機会はたくさんあったのですが、当時は少しは気が付くものの、深く意識を向けることはなく過ごしていました。しかし、日本の地方へ何度か足を運ぶうちに、たびたび訪れているコミュニティが彼らの生産する食材との豊かで歴史的なつながりを持っており、そのつながりが彼らそのものや、地域の文化を形成する根幹を成しているということに気付いたのです。

この発見が、ポッツさんの心に火をつけ、日本の発酵食品の奥深い世界へと彼を誘うきっかけになりました。

日本酒の世界をホームグラウンドに

仕事をする中で日本の地方に住む人々と出会う機会は多くあったものの、ポッツさんはまだどこか自分は部外者のような気がしていました。農業や醸造に携わるコミュニティで短期間を過ごしては東京へ戻る、これは今自分がどんどん夢中になっている文化とはどこか遠い場所にあると感じるようになります。

ポッツさんは完全にその世界に身を置きたいと強く願い、再び職を変え、千葉県の房総半島にある木戸泉酒造で働くようになりました。そうして、ゼロから日本酒造りの技術について学び、身を捧げることになったのです。

1879年に創業を開始した木戸泉酒造は、長い間地元コミュニティの柱として存在しており、まさにポッツさんの求めていた文化の砦のようなものでした。木戸泉酒造では蔵元が開発した独自の醸造法を採用しており、有機農法かつ自然農法米を使用したひと味違った日本酒を提供しています。原材料には強いこだわりがあり、米の生産が政府の厳しい統制下にあった時代には、闇市で米を調達していたほどです。

1年のうちの4ヶ月は、週7日間、朝5時半に仕事を始めて夕方5時半に終えるという日々を送ります。帰宅後もすべてが順調にいっているかを確認するために職場へ戻ることも多いです。厳しいですが、このスケジュールのおかげで完全に日本酒造りに身を捧げることができていました。気が散る要素を最小限に抑えながら、ポッツさんの五感は味やにおい、周りの空気と調和し、この上なく幸せな瞬間を創り出します。こうして今自分が身を捧げていることそのものについてや、その理由について、正確に、そしてより深く理解できるようになっていきました。

豊富な実地経験を積んだ後、次に自分のキャリアに必要なのは、スタンダードでより公に認められるような日本酒の知識を得ることだ、と思ったポッツさんは、日本酒サービス研究会・酒匠研究会連合会(SSI:Sake Service Institute)が認定する資格「酒匠」を取得するための勉強を始めます。ポッツさんが認定された2017年には300人の酒匠しかおらず、当時日本人以外で認定されたのは、史上二人目でした。

これ以前に認定されていた「唎酒師」と、この酒匠の資格がポッツさんのキャリアの突破口となり、日本中の業界関係者から、ポッツさんの才能を生かして事業を手伝ってほしいと声が掛かるようになり始めます。チャンスを求めていろいろな道を試してきたポッツさんも、ここでしっかりとした基盤を得ることになりました。

醸造のその先へ

蔵人として確立したポッツさんの次なる目標は、この業界に対する彼の影響力を増やすことです。Potts.K Productions(英語のみ)という事業を、情熱的なシェフであり通訳案内士の資格も持つ妻と始め、醸造や発酵、日本の食にまつわる事業を活性化させようとしています。中には、Koji Akademia(英語のみ)というプロジェクトもあり、これはポッツさんの師であるナカジさんと一緒に始めたものです。コロナの前は、一般の方やプロの料理人が麹作りを日常生活やビジネスに取り入れられるよう後押しすべく、ワークショップやセミナーを開催していました。

ポッツさんは、都市部の消費者と地方の生産者との隔たりを埋める鍵となるのは、コミュニケーションだと信じています。農家などの方には、都市部在住の顧客に魅力を発信するためのノウハウが足りていないことが多く、このことが都会の喧騒の中でその価値が埋もれてしまう原因となっています。そこで、Potts.K Productionsの出番です。何が特別感を与えているのかをしっかりと突き止め、地元の方々と力を合わせて、他とは違う魅力的なブランド創りを支援するのです。

そのようなプロジェクトの一つが、日本のうどんの聖地・香川県にある、宿泊施設と食について学べる施設が一体となったUDON HOUSEです。この施設での体験は、綿密に企画された観光客向けというよりは、香川のうどん文化のど真ん中に投げ込まれるという感覚で、必然的に特別な絆が生まれます。優れたデザインのウェブサイトが自慢で、スタイリッシュに改装された日本の昔ながらの家屋である「古民家」の中にあるUDON HOUSE。この刺激的な体験施設は、その基本的な特性を変えないように配慮された上で地元文化を活気づけるという、絶妙なバランスがとられています。

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情熱を世界と分かち合う

ポッツさんは様々なことに取り組みながら、日本中を駆け回っていましたが、心と魂はずっと日本酒にありました。もとより、日本酒という捉えどころのない文化を一般の人々、特に海外に住む日本語が分からない人々にとって、もっと親しみやすい存在にするにはどうすればよいかと考えていました。

ポッドキャストが大好きなポッツさんは、そのころ日本酒をテーマにしたポッドキャストが全くないことにがっかりしていましたが、この状況を正すべく、ポッツさん自身がその使命を引き受けることにしました。しかし、ポッドキャストは当時の日本ではまだ主流ではなかったため、プロジェクトに目が留まるまでは、大量の複雑な計算やプレゼンテーションが必要でした。確固としたアイデアと業界内での影響力が相まって、ついに日本酒造組合中央会(JSS:Japan Sake & Shochu Makers Association)からの支援を得て、日本酒通で英語話者のチームを編成し、ポッツさんはポッドキャストのMCを務めることとなりました。

ポッドキャストでポッツさんのチームが目指すのは、技術的な説明ではなく、本物の人間ドラマを語ることで、「日本酒や焼酎にまつわる話を広げること」です。「Sake On Air」(英語のみ)の初回エピソードは2018年10月にリリースされ、2022年の3月には80回目という大きな節目を迎えました。各回は、すべて無料で、この業界や日本酒文化の新たな要素にフォーカスしています。日本酒という領域の深い話から、日本酒業界で活躍する人へのインタビューまで、その内容は多岐にわたります。

Klook.com

未来の日本酒に対するポッツさんの想い

ポッツさんは、日本酒は今のままの姿で完璧だと思っています。変化をもたらすのではなく、日本酒にまつわる話を語ることでその魅力を伝えたいのです。地方の酒蔵や農村を世界的な観光名所にしようなどとは考えていません。そうではなく、日本酒を特別な存在に至らしめるものが何かを捉え、興味を持ってくれた人にそれを提供したいのです。

ただし、日本酒業界はポッツさんがこの業界に入ったころから比べると劇的に変化しているそうです。そしてさらに多くの変化が起こる兆候が見えるといいます。多くの酒蔵は既存のルールを捨てることもいとわなくなってきており、また逆に、もっと昔の伝統を掘り起こして着想を得たり、これまでにはなかった新しい、醸造方法を試したりしているのだそうです。

ぽんしゅ館を見て回っていたとき、ポッツさんはいくつか新しく注目している銘柄を教えてくれました。津南醸造のスタイリッシュな見た目の「GO-POCKETシリーズ」もその1つです。ポッツさんは取材前夜に津南醸造の蔵元とお酒を飲んでいたそうです。このシリーズは、ポケットに入るサイズでパウチに入っている日本酒なのですが、この商品は日本で人気を増すキャンピングにマッチするように、野外に持って行きやすいようデザインにされています。ポッツさんは、昔ながらの商品を大切にしながらも、最新のトレンドにも気を留め、巧みにバランスをとっている津南醸造のような酒蔵が、日本酒を古くさくて時代遅れのものにしないでいてくれる大切な存在だと感じています。

醸造や飲酒におけるイノベーションに加えて、日本酒にまつわる教育やプロモーション活動など、日本酒産業の周辺でも以前よりも活発な動きが見られるようになってきたと言います。現在、ポッツさんが携わっているものも含めて、数多くのプロジェクトがあり、それらが目指すことは、日本酒やその他の関連商品を通して日本を知る旅を広めることです。農業体験や、地元料理に合う日本酒のペアリング(日本酒がおいしくなる組み合わせを選ぶ)コース、料理教室、蔵人や農家の人との交流会や居酒屋巡りなどがあります。

このような状況にも関わらず、純粋にデータだけを見ると、国内向けの日本酒産業は市場的に衰退しています。海外での日本酒の人気は今までにないほど上昇しており、日本の酒産業に携わる者の多くは海外市場を救いとして見ています。これは間違いなく良いことではあるのですが、ポッツさんは、海外の売上だけに頼って酒産業を支えようとするのは良くないと感じています。

「日本酒の世界が国際的に広がり、成長していくのはすばらしいことです。業界もこれを目指し、たゆまぬ努力を続けるべきでしょう。でも、この日本酒という飲み物の将来が世界的に成功するかどうかのみにかかっている。そんな業界は、悲しいと思います。日本酒は、日本文化や人々の暮らしのクオリティを下支えする最も重要な要素を守るための基盤となっています。そういった真の価値を再確認できれば、私が楽しみにできるような未来につながると思います。」

自身が手がけるプロジェクトに対する展望としては、Sake On Airをいつか多言語で放送したいと思っているそうです。現在の内容を単に翻訳するというよりは、世界中の人々が自分の視聴者の要望に応じたポッドキャストコンテンツを作り、非英語話者でも同じように日本酒の世界を発見できる機会を提供できたら、と考えています。これによりまた、さらに多くの人が日本を魅力的に感じるようになるでしょうし、国内外共に、日本酒文化の真価を際立たせることにつながるでしょう。

日本で日本酒の魅力を最大限に引き出す方法

ポッツさんは、日本酒を理解することで多くのことが得られると信じています。味がよく、仲間で酔っ払うと楽しいだけではなく、日本酒は、日本の魅力すべてを表す縮図でもあります。日本酒というものの中には、生産地の文化、伝統、歴史が豊かに含有されており、そして日本酒を酌み交わすことで似たような価値観を持つ人たちをつなげるという役割も持っています。日本酒にはコミュニティのあらゆる面が完全に染みこんでおり、それが日本酒を通して農家や蔵人から居酒屋やバーへと広がっていくのです。

さらに、日本酒は生産地の気候や土壌、水によって色が違います。周辺の自然のいいところを凝縮して1つの飲み物に作り上げます。その土地で生まれた郷土料理と日本酒を合わせると、その土地を深く理解することができるのです。ですから、日本酒は観光地を巡ることやその土地で暮らす人と交流することと全く同様に大切な存在です。

「みんなが行くような道から外れてみれば、オリジナルな体験ができますよ。それ以上に本物の体験なんてないでしょう」。東京のような都会の多様性は尊重しながらも、ポッツさんは「日本の将来は田舎にある」と自信を持って考えています。日本の食べ物や飲み物が好きなら、都市部から離れて冒険してみれば、もっとずっと豊かな出合いが待っていると語っていました。

日本の魅力をもっと身近に感じられるように

日本の地方の、日本酒、農産物、そして料理という貴重な発見をしながら、ジャスティン・ポッツという人物のこれまでの軌跡を辿ってきました。間違いなく日本文化についてもっと深く理解できたでしょう。旅行業も徐々に再開しつつあるので、将来、ポッツさんの事業や日本の酒産業がどのような形になっていくのかが非常に楽しみです!

日本酒やポッツさんのプロジェクトの最新情報は、以下のリンクから確認できます。Sake On AirやPotts.K Productionsのサイトをぜひチェックしてみてくださいね!

この記事に掲載されている情報は、公開時点のものです。

ライター紹介

Steve
Steve Csorgo
オーストラリアのメルボルンで生まれ育ち、現在は新潟市在住。趣味は、地酒を見つけること、読書、そしてできるだけ多くの日本国内を旅すること。日本の好きなものは、温泉、史跡、手つかずの自然。伝統工芸品、風変わりだが魅力的な町、興味深い地元の話などを書くのが好き。
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