日本でプロの日本料理人になった若きベトナム人男性グエン・バー・フックさんの旅を通して、日本料理の真髄を深めていきましょう!

外国人にとって、日本料理は洗練された芸術作品のようなものです。調理中だけでなく、配膳や食事の段階でも細部までこだわっています。そこが日本料理の調理人を目指し学ぶ人々にとって、魅力であり、大きな挑戦でもあるのです。厳しい修行が求められる日本料理の世界で、ベトナム人のグエン・バー・フックさんは強い意志と努力でその道のりを乗り越え、日本政府が定める「海外における日本料理の調理技能認定制度」で最も高いレベルの「ゴールド」に認定されました。今回の新しいインタビューシリーズ「People of Japan」ではそんなグエン・バー・フックさんの話から日本料理について深く学び、彼の日本料理に対する思いを教えてもらいましょう。 

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日本で名声を得た若き料理人

日本において、特に調理分野で勉強や仕事をしているベトナムの若者たちは、グエン・バー・フックという名前を聞いたことがあるかもしれません。フックさんは2016年から日本で日本料理を勉強し始め、卒業後に北海道のレストランやホテル等で働いていました。そして2021年初めに、「海外における日本料理の調理技能認定制度」という農林水産省が開催する日本料理の調理試験に参加し、最も価値のある「ゴールド」に認定されました。この制度には、ゴールド、シルバー、ブロンズの3つのレベルがありますが、認定当時にゴールドの外国人は世界に18名しかおらず、フックさんは初めてベトナム人でこの賞を獲得したのです。

ただ有名になっただけでなく、多くのベトナムの若者たちが、フックさんの作品に表れる料理に対する気持ちや夢を追う真面目な姿に憧れを抱きました。次章では、tsunagu Japan編集部が実際にフックさんにお会いして聞いた、日本料理の魅力や成功の裏にあった努力、そして日本料理に対する熱い思いをご紹介します! 

グエン・バー・フックさんの日本料理への道のり:喜劇役者になる夢〜日本料理に触れるまで

tsunagu Japan: フックさんは料理人として豊富なご経験がありますね。料理人になるまでの道のりについて教えていただけますか。いつ頃から料理について勉強し、プロの料理人になりたいと考えていたのでしょうか。

フックさん:私は料理人になってから約12年経ちました。最初、料理は趣味だったわけではなく、しなければならないことでした。小さい頃、家族はみんな仕事に出ていて、私だけが家にいたので、料理を担当しなければならなかったのです。料理を始めた頃はよく怒られました。でも段々上達し、友達や親戚が食べにきておいしいと褒めてくれるととても嬉しかったです。それは料理をすることで得られる小さな幸せのようなものだと感じました。

小さい頃は喜劇役者になる夢があったので、高校3年生を終えると演劇学校を受験しました。でも残念なことに受かりませんでした。その時、父は家でよく料理を作っているので料理学校へ行くのはどうかとアドバイスをくれました。それを聞いて私自身も良いなと思ったのです。誰にも頼らず何かを勉強して働きたかったこともあり、志願して受験しました。料理との縁はそこから今まで続いています。

tsunagu Japan: ベトナム、中国、欧米のような様々な種類の料理がある中で、なぜ日本料理を選んだのでしょうか。繊細で魅力的ではありますが、学ぶのはとてもハードルが高く感じます。

フックさん: 最初は偶然だったんです。ベトナムの料理学校を卒業したばかりの頃、日本料理がベトナムで流行り始め、よく知られるようになりました。その頃にちょうど、ある日本レストランで実習をする機会がありました。その時はただ、もし日本料理を学べば将来多くのチャンスがあるかもしれないと思っていました。しかしその後、私が日本料理を作れるようになり、調理に対する一般的な知識を得た後、振り返ってみると日本料理はその頃のベトナムには無かったものであると分かりました。それは食材を選ぶところから調理、配膳に至るまでの繊細さ、スマートさです。私自身も新しいものを学ぶのが好きで、他の人がしていないことをしたかったので、より日本料理にのめり込んで行きました。最初は偶然でしたが、学んでいくに連れて日本料理の奥深さを感じ、それが今日までこの道を歩み続けてこられたモチベーションかもしれません。

tsunagu Japan: 日本料理を学ぶ中で、何が一番印象深く面白かったですか。そして何が一番難しかったでしょうか。

フックさん: 日本料理に長年携わり、各国の調理技術には多くの似た点があることに気づきました。日本料理の違いは調理人の細やかな気遣いが全ての料理に表れることです。また、私は伝統的な日本料理の調理方法がとても興味深いです。例えば、匂いのある調味料を多く使わず、食材が持つ風味を生かすように工夫していくのです。

私はそれがまさに伝統的な日本料理の精神だと思います。他国の料理との違いを生み出すものでもあり、また学ぶ者にとって困難を招くものでもあります。私はおそらく2〜3年すれば日本料理の知識を全て習得できると思っていたのですが、実際には日本料理はもっと奥深いものでした。特に難しかったのはどのようにすれば食材の持つ風味を維持できるかということです。調理人の食材に対する深い理解や、食材が持つ特徴を生かすためにどのように合わせれば良いかの知識が要求されます。これが日本料理を学ぶ上で一番難しいと感じたことです。

ベトナム人若手調理人の日本料理に対する考え

tsunagu Japan: フックさんにとって日本料理とベトナム料理の違いは何ですか。その違いは調理や配膳の中でどのように表れていますか。

フックさん: 料理は文化の一面だと思っています。各国の習慣や文化はそれぞれの食文化を形成する要素です。

日本人は昔から自然を崇拝しており、季節に沿った自然食材がよく使われています。そのため、日本語には「旬」という言葉があります。「旬」は野菜や海鮮といった食材が最も新鮮でおいしくなる時期のことです。日本人は食材の持つ本来の風味を味わうことを好むので、その風味が消えないように匂いの強い調味料はあまり使いません。一方、ベトナム料理は様々な食文化が合わさっており、調理方法においても、風味を作り出すために食材と調味料の合わせ方は多様です。

また、もう一つ違いを感じるのは、日本の御膳にはいつも様々な料理が少しずつ配膳されていますが、ベトナム料理では数より量の方が重視されることです。例えば客人をもてなす時に、ベトナムでは品数は少なくてもたくさんの量を出すことが良しとされ、日本ではたくさんの品数を少しの量ずつ出すことが良しとされます。これは大きな違いだと感じました。

tsunagu Japan: 日本料理の調理方法をベトナム料理へ取り入れたり、またその逆を試したことがありますか。その料理を紹介いただけますか。

フックさん: 日本の調理方法をベトナム料理へ取り入れることは、その逆よりも容易だと思います。なぜなら先ほども言った通り、ベトナム料理は多くの調味料を入れますが、反対に日本料理は食材本来の風味を大切にします。一度、ニンニクなどの匂いがある調味料を除き、タレを薄めた「フォーサラダ」を作ったことがあります。日本人がそれを食べてもベトナム料理だと気づきませんでした。
ベトナム料理の調理方法を日本料理に反映したことはまだないので、今後試してみたいです。

tsunagu Japan: 外国人観光客が日本へ来た時に紹介したいおすすめの日本料理はありますか。

フックさん:色々好きですが、一番のおすすめは懐石料理です。懐石には主菜や副菜と言った違いが無く、全てが合わさって一つの料理とされます。懐石も私が先ほど言ったように、旬の食材が使われていて、日本料理の伝統的な特色が全て表されている料理です。

ベトナムにはハノイの伝統的な料理や、フエの宮廷料理があるように、日本にも日本の伝統を随所に感じられる懐石料理があります。日本に来て懐石を食べなければもったいないですね。日本に来たら、ぜひ板橋区の「よし邑」という料亭に寄って食べてみてください。そこは前に私が働いていたところでもありますが、とても美味しい料理と丁寧なおもてなしで出迎えてもらえますよ。

我慢強さ、努力によって勝ち得た成功

tsunagu Japan: 日本で勉強や仕事をして過ごした生活の中で、嬉しかったことや悲しかったことなどの思い出を聞かせてもらえますか。

フックさん:最も嬉しかった思い出は、おそらく北海道の調理師専門学校に入れたことです。その次は、卒業試験の座学と実習で満点を取ったことです。勉強する時に、料理だけでなく、日本語も勉強しないといけませんでした。日本人よりおそらく2倍ほどの苦労がありました。しかし、外国人は日本人と同じレベルまでは上達できないのが当然だと思われたくなかったので、一生懸命勉強しました。仕事では満員のお客さんの前でマグロの解体をしたことですね。緊張していましたが、幸せと光栄も感じました。

悲しかったことは2020年、ミシュラン3つ星を獲得した高級料亭での就職が決まっていましたが、東京に上京して準備をしている時に、内定が取り消しされたことです。理由はコロナの感染が拡大し、お店の経営が困難になり休業することになったからです。高額な生活費がかかる東京で暮らしていくために、引っ越し会社のポーターの仕事もしていた2ヶ月間は非常に大変な毎日でした。しかしその後、無事に収入も安定している寿司屋に就職することができ、好きな仕事だけで生活していけるようになりました。

tsunagu Japan: 伝統的な日本食文化の保存と発展を目的として毎年外国人の日本料理調理人向けに農林水産省によって開催されているコンテストで、日本料理の外国人調理師として最高位「ゴールド」レベルに認定されたことが知られています。そのコンテストで賞を獲得した時の気持ちについて教えていただけますか。

フックさん:こちらのコンテストは、ゴールド・シルバー・ブロンズの3つのレベルがあります。私は日本の調理学校を卒業し、日本人の指導の下で働いた経験が2年あったので、ゴールドレベルに挑戦することにしました。

2020年11月頃このコンテストについて知った後、すぐに申し込みました。準備期間はあまり無かったのですが、今まで勉強したことや練習してきたことで十分だと思いました。私にとって、この称号は単なる称号では無く、自分自身の能力を他の人に証明できる証書のようなものでもあります。勉強し働いただけでは他の人と同じだからです。もし私が伝統的な日本料理を調理できると言っても、それを証明できるものがなければ、多くの人から信頼されないかもしれません。またこの称号は私を指導してくれた方々に感謝を伝えるものでもあり、将来ベトナムに伝統的な日本料理を広めていくための私自身の自信にもなりました。

tsunagu Japan:現在、北海道でバインミー専門店「バインミーシンチャオ」の札幌支店を経営しているそうですね。どんなきっかけでそのチェーン店の顧問になり、支社を開業することになりましたか?そして、経営を始めた際の過程や困難、またそれをどのように乗り越えたかについて少し教えていただけますか。

フックさん:東京にある高級日本料亭の内定が決定していたのですが、コロナの影響で2020年に内定が取り消されてしまいました。その後、偶然「バインミーシンチャオ」を訪れて、社長とお話しする機会がありました。ベトナム料理を日本でさらに普及するというビジョンに共感したので、特別顧問になることと、北海道への新支店開設に協力することになりました。
バインミーシンチャオ札幌支店は2021年6月に開店したばかりです。最初は多くの困難がありました。私は外国人ですので、場所を決める時や物件を借りる時、法的な手続きなどの困難は避けては通れませんでした。コロナの影響もありましたが、今のところはとても順調に行っています。お店も地方雑誌や番組でよく取り上げていただいているおかげで、認知度が高まっています。今のところの問題は、今年の北海道は積雪が大変多いので、遠方からのお客さんが遠ざかってしまうことだけです。

tsunagu Japan: 真の日本料理人として、本場の日本で認められることができたのは何のおかげだと思いますか。

フックさん:まずはもちろん皆さんの応援のおかげ、次に自分自身の我慢強さ、強い決意のおかげだと思います。一度何かをすると決めると、最後まで続けないといけないとずっと考えています。どれだけ失敗したとしても後悔はしません。現在、学校の卒業準備をしている方や働いている方々もそうだと思います。あれこれ怖がるより、自分の夢を一生懸命追いかけ最後までやり切るべきだと思います。

将来ベトナム料理と日本料理の架け橋になりたい

tsunagu Japan: フックさんは現在、料理人として調理をするだけではなく、ベトナム人に日本料理を教える活動をしていることでも知られています。ベトナム人・外国人が日本料理を学ぶ際にどんな困難があると思いますか。また彼らに対して何かアドバイスはありますか。

フックさん: 大多数の人は困難に直面します。多くのベトナム人は習い始める前は1〜2年ぐらいで習得できると考えると思いますが、日本料理は懐石料理や精進料理、寿司、てんぷらなど様々な種類があるので、それら全てを作れる「一人前の板前」と呼ばれるまでに5〜7年、もしくはそれ以上の時間がかかります。例えば、一見簡単そうに見える大根の皮剥きでも、1ヶ月もしくは1年ほど練習しないと完璧に習得できません。私も以前は、1年間毎朝包丁を研いでいました。そして、日本料理は何しろ丁寧に、細かくやらないといけないので、学ぶ人たちの粘り強さと気配りが必要です。それを覚悟しないと、難しいことにぶつかったらすぐ辞めてしまうと思います。

その上、言語と文化の違いも学習者に困難をもたらします。日本料理を学ぶ外国人にとって最も大切なことは、異なる考え方ややり方を受け入れることです。そうすることで、その食文化の芯の価値を深く知ることができ、なぜそうしなければならないかを理解することができます。自分の経験を通して、このような日本料理に対するイメージと実際のギャップを埋める知識を伝えたいと思っています。

tsunagu Japan:将来の計画や予定について教えていただけますか。

フックさん:もうすぐ北海道でベトナム料理店を開く計画があります。また年末にコロナ感染が収束していれば、ベトナムに戻って伝統的な日本料理レストランの経営に参加します。2〜3年前からその計画をしていますが、まだ実現できていません。

将来、ベトナムにいても日本にいても、2つの国の食文化の架け橋になるという目標を追います。伝統的な日本料理をベトナムに持っていき、多くのベトナム人に味わってもらえる機会を増やしたいと思います。そうすることで指導してくれた日本の方々に感謝を伝えていきたいです。また、ベトナムの食文化も世界に広め、多くの外国人や外国に住むベトナム人に堪能してほしいと思っています。

tsunagu Japan: 将来の計画が早く実現できるように応援しています。これからもおいしい料理をたくさん作りながら、情熱を次世代へ引き継いでいただけるように、そしていつまでも食に対する情熱を持ち続けられるようにお祈りしています。

まとめ

成功への道は決して簡単ではありませんが、情熱、決意、そして忍耐力があれば、必ず成功まで行けると思います。グェン・バー・フックさんの話を通じて日本料理を勉強している人たちに、刺激を与え、やる気を起こさせてくれることを願っています。日本に来る機会があれば、北海道のバンミーシンチャオのお店に行ってみてください。彼とお会いして、料理についての興味深い話を聞く機会があるかもしれません。

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Nguyen
Nguyen Loan