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1000年以上前から続く「京からかみ」とは?木版手摺りで魅せる、伝統文様の美しさ

京都を訪れたら、寺院の襖やホテルの壁紙などさまざまな場所で美しい和の文様を目にすることでしょう。実はそれは、京都の伝統工芸品「京からかみ」かもしれません。京からかみは、日本の伝統的な文様が彫られた版木に絵具を乗せ、手のひらで一枚一枚その文様を紙に摺り上げて作られます。今回は、明治35年に創業した京からかみの専門店「丸二」を訪問して、歴史や特徴、そして京からかみにしかない魅力をたっぷりと聞いてきました!

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京からかみの歴史

唐紙(からかみ)は、今から1300年ほど前に遣唐使によって中国から輸入されていた独特の技法で作られた装飾紙です。当初は限られた上流階級の人々が手紙や和歌を書くための料紙として使われていた大変希少なものだったそうです。

平安時代になると、当時日本の都であった京都に日本で初の造紙所「紙屋院」がつくられました。その後、文様が入った唐紙が出始め、これこそが「京からかみ」の原型となったのです。

当初は文具として普及した唐紙でしたが、国内での生産量が増えると、住居や寺院などの襖・障子といった室内装飾品へと用途が広がり、特に襖として広く使われるようになりました。そして江戸時代になると、ようやく町衆にも手が届くようになり、唐紙襖が広く普及しました。

最近では、ホテルや飲食店などモダン空間の壁紙、照明器具やアートパネルといったインテリアなど、幅広い用途に唐紙が取り入れられています。これらは100年以上昔から受け継いだ版木を使い、昔ながらの手摺りで作られています。

唐紙はどうやって作られる?

京からかみの製造工程


唐紙は木版画の一種で、伝統文様が彫られた版木に絵具を乗せて、和紙に一枚一枚手作業で摺り上げて作られます。絵具の濃度や色合いは、その日の湿度や気温に応じて微調整されます。襖判などの大判の唐紙の場合、12回版木を置き換えながら連続文様を摺っていくため、文様の位置が僅かでもずれてしまわないように注意深く摺る必要があります。さらに、量感豊かにふっくらと仕上げるために、同じ文様を同じ個所に二度摺りします。つまり、一枚につき24回も版木と紙を置き換えながら摺る必要があるのです。

このように、職人の勘と経験を要するとても繊細な手作業で作られる唐紙は、機械印刷では出すことができないふっくらとした独自の質感があります。この温もりある風合いこそが唐紙の最大の魅力と言えます。

唐紙を構成するもの

絵具(布海苔、雲母、胡粉)

唐紙の絵具には、花崗岩の結晶「雲母(きら)」の粉や、天日干しした貝殻を挽いて粉末にした「胡粉(ごふん)」に、「布海苔(ふのり)」を乾燥させて戻し煮詰めたものを混ぜ合わせて作られます。雲母には 独特の光沢と白さがあり、パールのように上品に光を反射させます。一方でマットに仕上げたい時には胡粉が使われます。
 

・鳥の子紙

丸二の襖に使用される紙は、主に福井県越前市で生産されている「鳥の子紙」。越前鳥の子紙は、ジンチョウゲ科の雁皮(がんぴ)という植物を用いてつくられる高級和紙で、滑らかで光沢があり、丈夫なことが特長です。

・版木

伝統的な文様を一つ一つ手彫りで作られる版木。職人が手のひらで摺って文様を紙につけるために深く彫られているのが特徴です。柔らかくて加工しやすく摩擦に強い朴(ほお)の木が使われています。

・篩(ふるい)

篩(ふるい)は丸い木枠にガーゼを張った唐紙特有の道具で、版木に絵具をつけるために使われます。篩を持ちトントンと優しく叩きながら、版木の文様の突起部分に均等に絵具を乗せていきます。

唐紙づくりの工程

1. 絵具を作るため、接着剤として使用する水で戻した布海苔(ふのり)を焦がさないように炊く。

2. 布海苔をこして、雲母や胡紛、顔料を乳鉢で調合する。

3. 絵具を刷毛で篩に移す。

4. 篩で優しく絵具を版木に色を移す。

5. 版木の上に紙を置く。襖紙などの大判は12回版木と紙を置き換えながら、連続文様を摺るため、予めつけた印に合わせて紙を置いていく。

6. 手のひらで円を描くように撫でて摺る。

7. 篩の絵具を再度版木に移し、同じ文様を同じ個所に2度摺りする。

8. 自然乾燥させて、完成。

時代背景と生活様式を映し出す文様デザイン

京からかみの文様は、部屋の役割や、その家の主の社会的地位などによって好まれるものが異なります。全体的な文様の流れとしては、初期は大陸の影響を受けた文様を取り入れた硬さがあり、江戸時代以降の新しいものは、日本的な自然現象を織り込んだ柔らかさが感じられるそう。

公家が好んだ「有職文様」は、王朝文化にはぐくまれた優雅な雰囲気に加えて洗練されたデザインで、邸宅のインテリアに用いられていました。また、寺院は広い空間に映える大柄の文様や雲を表した文様を好み、武家は地位と権威を象徴する硬い文様を好んだそう。一方で、茶方は繊細で洗練されたデザインを好み、植物の文様、特に桐文様が多く用いられていたそうです。

こちらの「光悦桐」のように、江戸時代の文様は、本阿弥光悦・尾形光琳らにより育まれた「琳派芸術」の影響を強く受けています。

このように文様を見ることで、当時の時代背景や各人の生活様式に思いを馳せることも唐紙の魅力です。

一つひとつの文様に込められた意味

それぞれの文様に意味が込められていますが、今回はtsunagu Japan編集部が丸二のオフィスや工房で出合った文様を例としてご紹介しましょう。

まずは写真1枚目の「丸紋」。昔から日本では「丸」には「和(なごみ)」の意味があると考えられているため、丸い文様には「みんな円滑になる」という意味合いが込められているそうです。

写真2枚目は、みなさんご存知の「桜」。桜は昔から日本で親しまれている花で、実は「さ」は田んぼの神様、「くら」は神様のいる場所を表しており、桜は五穀豊穣に繋がるという意味合いを持つそうです。

写真3枚目は「菊」。昔、中国では薬として使われていた植物で、菊を浸した水を飲むと病気が治ると言われていたことから、菊の文様には「健康長寿」という意味合いがあるそうです。

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伝統的な手法で唐紙を作り続ける「京からかみ 丸二」

今回お話を聞いた明治35年創業の「京からかみ 丸二」は、襖建具・表具(屏風、掛軸、額装等)・インテリア材料の卸業を営みながら、京からかみの自社工房を構え、主に寺社・茶室・一般住宅などの襖紙や壁紙の用途として唐紙の製作販売、施工を行っています。

古くから受け継いできた版木を使って昔ながらの材料や技法で唐紙を製造する会社は、自社を含めて京都では2軒のみだそう。平安の時代より京都に受け継がれてきた伝統工芸「京からかみ」を守りながら、その魅力を現代のライフスタイルに調和するかたちで発信されている貴重な会社です。

180年前の版木も!約300点の版木で受け継がれる伝統文様

丸二は現在、約300点の版木を所蔵しており、そのうち半数が現役で使われているそう。その中には百年以上前に作られた版木も多く、昔からの伝統文様をそのまま現代の生活に取り入れることができます。

こちらは、丸二が所有する中で最も古い版木で、なんと185年前の天保8年に製造されたもの。2~3年前までは現役で使われていたそうです。これらの貴重な版木は、修復したり復刻版を製作しながら今も大切に受け継がれています。

唐紙の未来へ託す、丸二の思い

丸二は、唐紙を「内装材(部屋のしつらえとしての一つの素材)」と考え、襖や壁紙だけでなく、照明器具(ランプシェード)、アートパネルなどの室内装飾品といった形で現代の生活様式にも取り入れやすい商品を開発しています。また、茶室や寺社などの伝統建築にとどまらず、「柊家 本館」「星のや 京都」「ザ・リッツカールトン京都」「ROKU KYOTO」など、名だたるホテルや旅館にも丸二の京からかみや版木を型どったレリーフを用いたインテリアが使われています。

「よくある言葉ですが、”伝統と革新”が大切ですね」と西村社長は語ります。「伝統は、平安時代から築き上げられて受け継がれてきた技法のこと。文様は伝統が蓄積された集合体と言えますね。昔から使われてきた材料と技法を大切にこれからも受け継いでいきたい。一方で、革新は、現代のニーズやライフスタイルに合う使い方の提案。現代の生活で使いやすい商品の開発も大切です。伝統と革新のバランスを考えながら、京からかみを普及したいと思っています。」

経済性や効率重視で精巧な印刷技術が発展していく現代において、1000年以上前から続く伝統的な技法が残っていることは大変貴重なこと。未来にも、京からかみが本来の価値を損なうことなく残っていくために、これからも丸二の革新は続いていくことでしょう。

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丸二が手がける施設「唐丸」で京からかみ作りを気軽に体験!

丸二には、京からかみを気軽に体験できる施設「唐丸」があります。初心者向けのハガキ作り体験では、好きな版木(文様)・紙を選び、絵具の色も調合して、手で摺る工程を楽しむことができます。アートパネル作り体験では、100年以上前の版木を使えることもあるそう!1000年以上前から続く伝統工芸の奥深さを味わいながら、自分好みのお土産を作ってみてはいかがでしょうか。

 

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