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都心で見つけたオアシス、旧朝倉家住宅

東京の洗練された雰囲気に魅力を感じる人は多いでしょう。ですが、その忙しない空気感に圧倒されることもあると思います。そんな慌ただしい東京にも、旧朝倉家住宅のような都会の喧騒の中にあり、20世紀初頭の日本にタイムスリップできる静かで隠れ家のようなオアシスがあります。かつて東京の有力政治家が住んでいた場所で、その優れた日本式建築と卓越した職人技が高く評価されています。今回の「日本の観光」では、現代の東京に息づく伝統的な日本の息吹に触れることができる美意識と緑豊かな庭園を体現した、国の重要文化財「旧朝倉家住宅」を取り上げます。

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訪れる人をタイムスリップさせる重要文化財

忙しない都会での生活は疲弊することもあり、ペースダウンしてリラックスできる場所が大切です。そんなわけで今回は、旧朝倉家住宅を訪れてみました。代官山駅から歩いてすぐのところに、コンクリートの建物とアスファルトの道路に囲まれ、控えめな門構えでひっそりとたたずんでいます。一見見落としてしまいがちですが、門をくぐると壮大で伝統的な日本家屋と庭園があり、大正時代(1912―1926年)にタイムスリップさせてくれます。

旧朝倉家の名前は、1919年に邸宅を建てた朝倉虎治郎氏の名前に由来しています。朝倉氏は東京府議会議長、渋谷区議会議長を務め、20世紀前半に東京の政治家として活躍した人物で、邸宅は1947年まで朝倉家が所有していましたが、その後国有財産となりました。2000年代初頭まで様々な政治的用途に使用され、2008年に一般公開されました。1923年の関東大震災以前に建てられた大正期の数少ない建築物の一つとして、その典型的な和風建築が評価され、2004年に国の重要文化財に指定されました。

私もtsunagu編集者も日本のレトロな美意識が大好きなので、今回この伝統的な建築物を訪れることができて光栄でした。時代を超えてきた旧朝倉家住宅ですが、木造建築のため老朽化は避けられません。しかしながら、建物全体の改修ではなく、日本の伝統的な大工技術である「根継ぎ」により腐りかけの木材のみを新しいものと交換し、残りの部分は元の木材のまま残存させています。そのため、訪れた人は限りなく当時のまま歴史的な体験をすることができ、重厚な塀の中を歩いていると、まるでタイムスリップしたかのような錯覚を覚えるのです。

垣間見られる歴史的な政治家の暮らし

外観の壮大さから、この家がかつて由緒ある人物によって所有されていたことはすぐに分かります。木造2階建ての建物は、周囲の木々の間から少しだけその威厳に満ちた姿を垣間見ることができ、来客や家族が使用した「内玄関」の木の温もりに目を奪われます。内玄関とはいうものの、敷居をまたいで日本風の玄関に足を踏み入れると、その印象的な造りに驚かされるとともに、木の温もりにより歴史の息吹が感じられる空間になっています。

玄関に入ると、優雅な装飾が施された廊下が続き、洋室や茶室などを含む大広間や応接室へと続きます。朝倉氏は多くの賓客を自宅に迎え入れたため、邸宅は「おもてなし」に重点を置いて作られています。実際、部屋の大半は客人をもてなすためのもので、家族で使う部屋は3部屋だけだったそうです。

ゲスト目線で作られた邸宅

旧朝倉家住宅は、客人に最高のおもてなしが提供できるよう、細部にまで気を配った作りになっています。特に驚いたのは、応接間に続く一階廊下の畳です。こんなに柔らかい畳を足で感じたのは初めてで、客人が快適に移動できるように配慮されていることが分かります。現在、住宅から観光地まで機械織りの畳が溢れる中、旧朝倉家住宅では全国でも数少ない手織りの畳を使用しているため、客人は触感が刺激されるのを感じ、時代をさかのぼるような感覚を覚えるのです。

1階と2階をつなぐ木の階段も、朝倉氏のおもてなしの心をさりげなく物語っています。日本の階段、特に城の階段は、西洋の階段より急な印象がありますが、朝倉家では、1階に着いて初めて階段を降りたことに気づいたほど上り下りがしやすかったです。これについて聞いてみると、すべての客人が使いやすいように設計されているとのことで、素敵な心遣いだと感じました。

朝倉家には椅子を使用した接客ができる洋間が1室設けられています。当時、日本の裕福な家庭でも流行した建築様式で、カーテン窓やカーペット敷きの床などが日本式の住宅とは大きく異なるものの、引き戸や和風の格天井などに美しい和の要素が見られます。現在は家具の備え付けはありませんが、その西洋式のディテールに魅了されました。

朝倉氏は茶道もたしなみ、邸内に設けた茶室で稽古をしたり、客人をもてなしたりしました。庭に囲まれた家の一角にある解放感ある茶室は、庭の木々と調和し、日本の茶道で伝統的に重要な役割を担ってきた自然の要素が取り入れられています。私自身も茶道をたしなんでいましたが、このような贅沢な部屋で、庭から吹く風を感じ、木の葉のざわめきを聞きながら柔らかい畳の上に座って抹茶をいただけるなんて、想像するだけでゾクゾクしました。

目を奪われる芸術的なディテール

家の中は、襖や飾り戸棚、羽目板など、さまざまな意匠が施されていて魅了されます。朝倉氏の財力はもちろん、邸宅の隅々にまで行き届いた配慮がなされている証です。各部屋には場所や用途に応じた独自のディテールが施され、思いがけないところに魅力的な要素が隠されています。襖などには優雅なデザインが施されていますが、一見シンプルな木のように見える隅々や建具も、よく見ると意外なものが隠されていることがあります。例えば、洋室で見上げると、幾何学模様の羽目板の天井に美しい彫刻が施されたシャンデリアのブラケットがあり、また、邸宅内の窓には繊細な格子が施されています。

日本の伝統的な建築美を意識した建物と庭園が調和する設計がされているため、館内を歩く際には、各部屋から見える庭園の景色にも注目してみてください。例えば、2階の広間の襖には下の部分に桜が描かれていますが、これは、2階から庭の木々を見下ろすように、上から見た印象を与える工夫がされています。各部屋には用途や場所により異なる設計が施されています。

落ち着いた邸宅の歴史的な回廊を散策していると、タイムスリップしたような気分になりましたが、現実に引き戻され、ここは東京の真ん中なんだと思い知らされる瞬間もありました。二階廊下を歩いていると、庭園の豊かな緑の上に見えるのは灰色のコンクリートの建物で、建設当時は見えていたという富士山は見えませんでした。また、2階の窓からは旧朝倉家住宅の瓦屋根と、その向こうにはガラス窓のモダンな店舗が見えました。歴史と近代の対比を目の当たりにすることができ、東京の急速な近代化を視覚的に見ることができます。

邸宅内のどこからでも愛でられる美しい日本庭園

庭は日本の伝統的な建築や造園に不可欠な要素であり、旧朝倉家住宅では、窓、ガラス張りの扉、側面の廊下など、邸宅内のどこからでも庭を見渡すことができるようにレイアウトされています。外庭だけでなく家の中心には中庭もあり、まるで田舎の隠れ家的な邸宅を散策しているような感覚を味わいながら、五感が自然に心地よく包まれる感覚が味わえます。

邸宅の見どころのひとつは外庭です。かつては朝倉氏専用の和室で、現在は洋室の第一会議室となっている部屋から眺めるのが最も美しいです。ガラスの引き戸を開けると、緑豊かな庭がその木枠に縁取られ、豪奢な風景が眼前に広がります。そこから庭園の景色を見ていると、朝倉氏がこの部屋を選んだ理由が分かります。邸内にはゆったりとした時間が流れ、心が洗われるようで、何時間でも眺めていたくなりました。

身も心も癒される伝統的な日本庭園の豊かな緑

洗練された内装を隅々まで堪能した後は、邸宅の外に出て横に曲がると、木々の緑に包まれた日本庭園に続く木製の門がありました。石畳の道を進むと、第一会議室から見下ろした庭の真ん中に出ました。周囲には緑濃い苔の丘、ゆるやかに揺れる木々、そして立派な石灯籠がありました。手入れの行き届いた石畳は大きな岩の道に変わります。周囲の自然美を眺めながら、童心に帰って岩から岩へとジャンプしました。

樹木はプロの日本庭師によって手入れされ、整然としながらも自然の美しさを発揮し、庭の他の要素を引き立てています。この庭は、日本人が愛する「わびさび」の美学を醸し出しています。よく手入れされていますが、本来の自然を損なうような過剰な手入れがされているわけではありません。

庭から眺める邸宅は、都会の喧騒から邸宅を守るように木々が生い茂り、また違った表情をみせてくれます。邸宅を囲む木製のバルコニーのすぐ近くまで行き、中からとはまた違った角度から大きな部屋を覗いてみました。庭は邸宅の周囲に広がっていて、静かな奥の部屋を覗き込んだりしながら、散策を楽しみました。

私たちが訪れたのは夏で、庭は木々の葉や苔など鮮やかな緑に包まれていました。庭園は四季折々の景色が魅力的で、季節を問わず美しい景色を見ることができます。春は可憐な桜、夏は新緑、秋は鮮やかな紅葉、冬は落ち着いた雪景色と、旧朝倉家住宅は一年を通じて楽しめます。

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東京の都心で体験する日本の伝統的な美意識

東京の都心にある日本伝統の建築物の代表格である旧朝倉家住宅は、過去の日本を垣間見ることができる場所として、不動の地位を築いています。伝統的な日本建築を観察するのに絶好のスポットであるだけでなく、忙しない東京の真ん中にある静かで緑豊かなオアシスでもあります。渋谷や恵比寿といった主要スポットからのアクセスも良いので、都心に出かける際にはぜひ立ち寄ってみてください。

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ライター紹介

Kim
Kim S.
アメリカで生まれ育ち、現在は東京を拠点に活動しています。日本の伝統文化が大好きで、レトロやローカルな雰囲気、タイムスリップしたような気分にさせてくれる場所を求めて、日本中の静かな街や穴場を訪れています。47都道府県のおいしいコーヒーショップや知られていない素敵な場所を探すのも楽しみのひとつ。
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