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日本の伝統工芸「金継ぎ」 傷を修復する中で見せる不完全な美しさ

「金継ぎ」とは日本に古くから伝わる伝統工芸の1つで、専門的な材料を用いて、割れたり欠けたりした器を修復する技術です。出来る限り「美しく修復する」ことが金継ぎの重要な側面ですが、ただ単純に修復するだけの技術にとどまらず、モノに新たな命を与え、日本特有の美しさを表すことができます。金継ぎを通じてモノを大切にする精神は、SDGsの掲げる持続可能な開発目標という理念にも通ずることから、近年海外でも注目を集めています。今回の「Culture of Japan」特別企画では、東京・南青山のワークショップを訪れ、金継ぎの由来を学び、職人の指導の下、非常に興味深い金継ぎ体験を行い、最後には記念に自分の作品を持ち帰りました。

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金継ぎとは

「金継ぎ」は日本語で「金継ぎ(kin-tsugi)」、古くは「金繕い(kin-tsukuroi)」とも呼ばれ、昔からあるユニークな修復技術です。金継ぎの実際のやり方や手順は職人によって異なる部分があるかもしれませんが、簡単な流れを言うと通常次のようになっています。まず器の破損した部分を磨き、紙テープを使って固定します。続いてウルシの樹液を使って作られた天然の接着剤「漆(うるし)」(またの名を本漆・天然漆)で器の破損した箇所を繋ぎ合わせ、接着部が完全に乾燥した後、表面を磨いて平らにします。そして最後に、表面に金粉またはその他の金属粉をのせ、再度表面を磨いて、しっかり乾燥させたら完成です。金継ぎは長時間の待ち時間と根気が必要な作業で、実際の作業時間は破損の状況に応じて、3ヶ月以上かかることも珍しくありません。

金継ぎの歴史

筆者が初めて「金継ぎ」と耳にした際、直感的に金などの金属を溶かして、修復または補強する技術だと考えていました。今回ワークショップに参加し、職人の解説を聞いて、初めて金粉をのせる前にまず漆を塗るのが必要で、この「漆」こそが割れた器を繋ぎ合わせ修復するのに不可欠なものなのだと知りました。

漆を使って壊れた器を修理する技術は、縄文時代(紀元前8,000年〜紀元前2,000年頃)まで遡ることができるそうです。日本では漆で補修した縄文土器や、先端を漆で補強した石槍など、多くの文物が出土しており、漆を使って修復する技術がその頃から存在していたことが分かります。しかし、当時はそれらの器を金や金属で装飾する習慣はまだありませんでした。

現代では、壊れた器を金で装飾する技法にも比較的馴染みがありますが、その起源は茶文化が盛んだった室町時代(1336年~1568年)だったといわれています。当時、武家や貴族が使用していた茶器はほとんどが中国からの輸入品で高価で貴重であったため、茶器は非常に大切なモノでした。そのような背景により、不注意で茶器を割ってしまったとしても簡単に捨てることはできなかったため、漆で修復した上から豪華な金粉の装飾を施す技術が発展し、茶器の寿命を伸ばす手段として使われたのです。また、人々は壊れて傷がついた部分を金継ぎで補修した跡を「景色」と呼び、本来ならマイナスな印象を与える傷に「美」を見出し、楽しむようになったのです。

南青山「うつわ御結HANARE」にて金継ぎ体験をする

筆者はこれまで金継ぎに触れたことがなかったので、金継ぎの由来や手法を理解する第一歩として、日本の文化体験を紹介するサイト「WABUNKA」を通じ、金継ぎワークショップへの参加を申し込むことにしました。

今回、金継ぎワークショップを主催したのは、創業120年以上の老舗器問屋「京橋白木」が運営する器のセレクトショップ「うつわ御結」で、こちらは東京を代表するオシャレな街・南青山の骨董通りにあるお店です。「うつわ御結」では有田焼・伊万里焼など日本各地の窯元の作品を展示・販売しています。また、和食器の魅力をより総合的に発信するため、2022年に近くに「うつわ御結HANARE」をオープンし、金継ぎ体験ができるアートギャラリーを併設しました。金継ぎ体験の参加者は職人による対面講座や金継ぎ修理体験、お茶菓子の試食などの豊富なアクティビティを通じて、金継ぎや和食器に深く触れることができます。

日本語:https://wabunka-experience.com/
英語:https://otonami.jp/wabunka

初めての金継ぎ体験

平日午後、筆者は「うつわ御結HANARE」を訪れ、様々な美しい器に囲まれながら、初めての金継ぎ体験を始めました。今回の体験は、金継ぎ師の萩原利之先生が講師を務めました。萩原先生は25年以上食器に関わるお仕事に就かれ、香川の著名な漆器職人・伝統工芸士である中田陽平氏にも師事し、日本金継ぎ協会公認の金継ぎ師であるだけでなく、日本各地の窯元や食器の特色にも精通している食器の専門家です。

金継ぎと茶道、漆の深い関係

前述の通り、金継ぎの発展は茶文化と深い関わりがあります。歴史において、金継ぎ工芸文化が重大な転換を迎えたのは、戦国時代(1467年〜1615年)の武将兼茶人の古田織部によるものだと言われています。古田織部は茶聖・千利休の弟子で、卓越した茶道の腕前と茶器へのこだわりで有名でした。一般の茶人が茶器を懇切丁寧に取り扱う一方で、彼は大胆かつ意図的に貴重な茶器を割り、十字に裂傷を入れ、金を以てそれを繋ぎ合わせて修復したこともありました。ちなみにそのお碗は「大井戸茶碗 銘 須弥」の名で歴史に名を残しています。

金継ぎは漆とも非常に深い関係があります。漆は防湿・防水・防虫・防カビなどの特徴があるため、今日に至るまで、神社の鳥居などの建築物や彫像などの国宝の修復に使われています。また、かつて漆工芸が盛んだった頃は、お正月のおせち料理の器や木製の棚などの修理にも使われていました。萩原先生がいうには、一般の金継ぎで使用する漆は天然漆と合成漆に分けられ、そのうち天然漆にはまた更にたくさんの種類があり、昔は漆の中に小麦粉を混ぜ、小麦粉に含まれるグルテンの粘着質を接着剤として使用していたこともあったそうです。天然漆を使う場合は、最初の漆を塗る段階で、乾燥のために3時間~3週間の待ち時間がかかるそうですが、合成漆を使う場合はおよそ30分程度で乾くといわれています。

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「うつわ御結HANARE」の金継ぎの流れ

萩原先生の講座を聞き終わり、金継ぎに対しておおまかな理解を得たところで、今回のメインイベントに差し掛かりました。金継ぎ体験です。本来金継ぎには長い時間と根気が必要であり、たった1日で終わらせることはできないため、割れた面に塗るための麦漆、浅いヒビを埋めるための錆漆、接合面を滑らかにする黒呂色漆など、複雑な前処理は事前に全て職人が代わりにやってくれていました。

ワークショップの参加者は基礎入門編ともいえる、「中塗り」という段階から体験を開始します。ただ体験とはいっても、使用される本漆などの材料や参加できる修理工程は全て本格的で伝統的なものです。また、参加者が金継ぎ体験で使用する器は、おちょこやティーカップのような大きさのもので、実際に使用するものは当日ワークショップにあるものの中から選びます。いずれも優れた品質で緻密に作られた作品なので安心できます。

筆者が当日受け取ったのは、小さくて緻密な模様が描かれたおちょこでした。おちょこの上には既に特殊な機械で製造された割れが入っており、上には黒呂色漆が塗られ、しっかり乾ききっており、次のステップに移れる状態でした。

油で筆先を湿らす

赤松からとれる「テレピン」と呼ばれる松油は、絵を描くときに使われることが多く、筆先に松油をつけると、筆が柔らかくなるので、より柔らかく上手に絵が描けるようになります。

中塗り

黒呂色漆を塗った後、金粉をのせる前に、絵漆または弁柄漆とも呼ばれる赤色の漆を塗り、金粉が綺麗に発色するようにします。器の割れ目の上に薄く均等に塗る必要があります。萩原先生がいうには、このステップが完成品の美しさに非常に影響してくるといい、注意深く、根気をもって、ゆっくり焦らず行うのが大切です。塗り終わった後は、器を置いて10分程度乾燥させます。

油で筆先をきれいにする

漆を塗り終わった後、油で筆先を湿らせ、へらまたはティッシュで優しく筆先の油分を取り除きます。もし筆先に漆が残っていると、硬くなってしまいやすく、次に使うときに使いづらくなってしまいます。そのため、筆先の余った漆を油で洗うことは必須です。

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金粉をのせる

「真綿(まわた)」と呼ばれる絹を手で割き、繊維をできるだけほぐしてふわふわにし、均等に千切った後、ふわふわとした綿を集めて小さな玉状にします。そして金粉をたっぷり筆に取り、器の継ぎ目に厚く塗ります。その後、真綿の玉を手に取り、継ぎ目の上から左右に軽くはたいて、金粉が均一に塗りこまれるようにします。

乾燥

ここまで終わると、今日の作業はひと段落です。木箱を1つ受け取り、当日作った作品を中に入れて持ち帰ることができます。漆は一定の湿度がなければ乾燥しないので、帰宅後も器を木箱の中に入れたまま、木箱の隅に絞った濡れタオルや濡れ布巾・濡れた新聞紙などを入れて高い湿度を保つように注意が必要です。タオルは70%程度の湿り気で、雫がたれない程度であれば良いそうです。そしてそこから約2週間置き、適宜タオルの状態を確認しながら、タオルが乾いていれば再度濡らし、湿度を足すようにします。2週間後、柔らかいスポンジなどで余った金粉を落とせば、完成です。

漆が乾燥するのを待つ間、萩原先生は陶磁器の専門知識を紹介してくれました。萩原先生がいうには、一般的に新しい陶器を使用する前は、お米のとぎ汁に入れて20分ほど煮るのが良いそうです。これはお米の中の澱粉を陶器の上の小さな気泡の中に入れるためであり、密度をあげることで、水の浸透を防げるようになるからです。

また、陶器と磁器の簡単な見分け方として2つ紹介してくれました。第一に、陶器は粘土で作られているので、外側は釉薬をつけ、底面は必ず土の色をしており、指ではじくと鈍い音がします。逆に磁器は多量のガラス材を使用しているため、軽くはじくと高くはっきりとした音がします。第二に、陶器も磁器もはいずれも釉薬を使用しているものの、陶器の底(テーブルと触れる足の部分、日本語では「高台」と呼ばれます)は通常釉薬をつけないため、比較的ザラザラしています。磁器は釉藥をつけているため、触った感触はつるつるしています。この他にも萩原先生は、私たちに異なった形状の器を見せ、どのような料理と合わせるのが良いのかも教えてくれました。

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金継ぎのメリットと保管時の注意点

金継ぎを行った器は、元来の「景色」とはまた異なる新しい「景色」を持ち、唯一無二の特徴を持ちます。このような芸術品とも言えるような器は、家の中や部屋に飾ることができるだけでなく、器としての寿命を長くできたことから、引き続き食器として使用することができます。ただ注意が必要なのは、金継ぎを施した箇所は熱に弱いため、電子レンジ・オーブン・ガス、食器洗い機や乾燥器などの温度の高いところでの使用は適しておりません。

また、洗う際にはいつも通り洗剤を使用することはできますが、なるべく硬いスポンジやタワシなどは使用しないようにしてください。可能であれば、手洗いが一番です。長時間水につけるのもなるべく避け、保管時は継ぎ目に装飾された金粉がぶつかって取れないよう、金継ぎした食器やその他の食器と一緒に仕舞わないようにするのが良いでしょう。

金継ぎができる器とできない器

金継ぎは陶磁器に施すことができるほか、実はガラス皿や木製の器にも施すことができます。ただし、ガラス皿は材質が比較的硬いことから最初の破損部分を削る工程がかなり難しく、特殊な工具が必要になるため、一般の人は手が出しづらいです。また、金継ぎをした器は熱に弱く、長時間水につけるのにも適していないことから、土鍋や花瓶などの容器には適さないでしょう。

金継ぎで延ばすお気に入りの器とのご縁

金継ぎのブームが再燃していますが、実は金継ぎ以外にも、銀粉や銅粉といった金属粉を用いて装飾を施す、いわゆる銀継ぎや銅継ぎもあります。筆者の経験から言えば、やはり自分1人でやるよりは、一度金継ぎワークショップに参加し、講師の先生と対面で体験してみるのがおすすめです。金継ぎに関する知識を身に着けてから、現場で体験することができ、質問があれば都度職人にも聞けるので非常に良い体験になります。そして、「うつわ御結HANARE」では、簡単な金継ぎ補修DIYキットも販売しているので、まだ物足りない場合はキットを購入して持ち帰って、自宅で金継ぎを楽しむことも可能です。

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金継ぎ体験の関連情報

Wabunkaについて

今回の体験コースは「Wabunka」サイトを通じて予約しました。このサイトは訪日外国人観光客に茶道、華道、寿司、和菓子、金継ぎ(金で碗を補修する技法)など多くの日本文化体験コースを提供しています。しかもすべて英語で受講することができるので、本物の良質な日本文化を体験したいなら、Wabunkaサイトで予約してみてください!

日本語:https://wabunka-experience.com//?ref=mtonjmpr
英語:https://otonami.jp/wabunka/?ref=mtonjmpr

※この記事は、Wabunkaから体験の無償提供を受けて作成していますが、記事内の感想などは全てライター個人の意見です。

この記事に掲載されている情報は、公開時点のものです。

ライター紹介

Fuchi
Fuchi Pan
台湾出身、東京在住。手仕事の器や好きなものに囲まれる暮らしに憧れています。
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