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下北沢の隣駅・新代田:京王井の頭線沿いで緑を楽しむぶらり旅

京王電鉄の京王井の頭線は、繁華街の渋谷から三鷹の森ジブリ美術館がある吉祥寺を結び、下北沢・井の頭公園などの有名な観光地を通ります。今回のtsunagu Japan特集企画「Area of Japan」では、下北沢の隣駅で観光客にはあまり注目されることのない「新代田」を訪れました。緑あふれる散歩道にはカフェ・ベーカリー・雑貨屋・カレー屋・花屋など生活に根差したお店が集まっており、静かで優雅な雰囲気が、一瞬東京にいることを忘れさせるでしょう。今回はこの都会のオアシスともいえる新代田を一緒に探検しましょう。

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京王井の頭線・新代田駅

活気溢れる賑やかな町である渋谷から京王井の頭線に乗り、電車が西に向かうと、徐々に人が少なくなり、住宅が多くみられるようになります。新代田駅の改札を出ると、私たちを迎えるのはひっきりなしに車が往来する環状七号線です。向かいのライブハウスとコンビニを除けば、あたりは全て住宅で、道を歩いているのも近所に住む住民のようです。世田谷区に位置する新代田は下北沢から徒歩圏内でありながらも、非常にローカル色が強い、というのが多くの人が新代田に抱く第一印象でしょう。

目的地に向かうため、筆者は井の頭線の新代田駅から東松原駅方面に向かって歩きました。歩みを進めているうちに住宅地を囲む緑も増え、気づけばまるで目の前に楽園が現れたかのような景色が広がりました。

閑静な住宅街に潜む「羽根木」

この「羽根木」と呼ばれるエリアには、建築家が作ったオシャレなデザイナーズマンションや1軒1軒並木道の間を縫うように連なる綺麗な2階建ての住宅が立ち並んでいます。通りの左側は日本的な家屋、右側はコンクリート打ちっぱなしとガラスのモダンな建築が並び、新旧のコントラストを造り出しています。

緑豊かな中、いくつかのお店が通りの両脇にぽつんと点在しています。ガラス窓越しにゆったりとした雰囲気を醸し出すお店は、あえてその個性を際立たせることはなくとも、独自の風格に溢れ、時折のんびりと人が行き交い、静けさと安らぎが交じり合っているエリアです。東京にいながらも、大都会の喧騒は感じられず、知らず知らずのうちに心が穏やかになっているのがわかります。筆者が羽根木についたのは午後でしたが、晴れ晴れとした気持ちで最初の目的地へと向かいました。

国境を越え、カレーとスパイスを優しく繋ぐ「kitchen and CURRY」

カレーとスパイスをテーマにしたお店「kitchen and CURRY」は、入口に看板はなく、代わりにチョークで手書きされた、可愛い猫のイラストが描かれた黒板を出しています。控えめで温かい雰囲気のお店というのが、筆者の「kitchen and CURRY」への第一印象でした。

羽根木の一角にある「kitchen and CURRY」は、あらゆる場所で間借りのカレー屋さんとして活動してきた「and CURRY」ブランドの実店舗です。ランチやディナーの時間帯に、スパイスカレーやビール、スパイスを使った飲み物などを提供しています。また、カレーやスパイスの研究場所を兼ねたキッチンとしての役割も果たしています。

「and CURRY」を主宰している阿部由希奈さんは、カレーやスパイスの世界に足を踏み入れて長いそうです。最初は月に一度お店を借りて「流しのカレー屋」という形でカレーを販売していたものの、自身がカレーの持つ豊かさ・多様性に深い興味を持っていることに気づき、より多くの人にその魅力を届けたいと思うようになりました。そして2018年に友人の紹介を通じ、新代田にて「kitchen and CURRY」を開設し、2023年7月で5周年を迎えました。

阿部さんはカレーが生活の中で、日本人が日頃食事をするうえで欠かすことのできない味噌汁のような存在になって欲しいと思っています。そのため、「kitchen and CURRY」では一般的なカレー屋のように、どこの国の料理であるかを定義することはなく、「国を超えて」、阿部さんの好みやお客さんの好みに基づいて作られています。

旬の食材を使った三種類のカレーは、単品で注文できるほか、二種・三種のカレーを組み合わせて注文することもできます。筆者が訪れた日のカレーのメニューはパリパリピーマンとビーフのカレー・タイバジルポークキーマ・旬野菜のサンバル。三種のあいがけのカレーを注文すると、三種のカレー、二種の副菜、ヨーグルトのソースのライタ、ご飯が乗った一皿が運ばれてきました。

スパイスカレーを全て同じお皿に乗せて、自由に好きな食材を組み合わせて食べる方法はスリランカの伝統的な食べ方だといいます。筆者も阿部さんのおすすめの食べ方で食べてみました。まずスプーンで三種類のカレーをそれぞれ別々に味わった後、少しずつ異なる味を混ぜ合わせ、新しい風味を味わいます。その後、異なる味のカレーに異なる具材を乗せて味わい、最後に三種類すべてを混ぜ合わせて食べます。

三種類のカレーはどれも口当たりも味も香りも優しく、低刺激でまろやかな印象が残りました。そして、一緒に混ぜて食べることで絶妙に混ざり合い、食べ終わると口の中にまろやかで爽やかな心地が広がり、心も同じような多幸感で満ち溢れ、阿部さんの心遣いが感じられました。筆者は追加でたまごのアチャールも頼みましたが、半熟卵と濃厚なスパイスの香りが鼻を刺激し、とても美味しかったです。

スパイスが好きな人や新しい味を試してみたい人は、是非6種のスパイスを使って作られた「ターメリックミルク」を飲んでみてください。インドのチャイティーに似ていて、飲みやすく暑さが和らぎます。

トルコの伝統的な針仕事に新たな魅力を与える「WASABI-Elişi」

「kitchen and CURRY」と同じ道に、花屋・パン屋などローカル色の強いお店が並んでいます。筆者がやってきたのは、大きなガラス窓がいくつもあり、窓辺には小さなエスニック風のペンダントがかけられていた「WASABI-Elişi」です。2023年の秋で羽根木に拠点を据えて9年になる「WASABI-Elişi」は、東京では珍しく、主にトルコ製の布製品や手工芸品を売る専門店です。

ドアを開けると、ショートカットが素敵な、笑顔溢れる店主の赤松さんが出迎えてくれました。店名の「WASABI-Elişi」は日本語の「わさび(清々しい青い葉を持つわさび)」とトルコ語の「Elişi(手仕事)」の2つの単語を組み合わせたものです。以前は展覧会でトルコの手工芸品を紹介していた赤松さんですが、後に実店舗を開くことにしました。印象深いお店の背景には、緩やかで心地よい雰囲気のもと、たまたま訪れたお客さんが思いがけない驚きに出会えるようにしたいという想いがありました。赤松さんが言うには、お店を開くにあたり、適切な場所を探すのにかなりの時間を割いたそうですが、当時の羽根木は今のような様子ではなかったものの、オシャレな家や周囲の醸し出す雰囲気を見て、この場所だと直感を得たそうです。

赤松さんはトルコの手工芸品に対し、非常に情熱があり、筆者に対し店内にある作品を紹介するときも、その熱いまなざしと言葉の一つひとつが深く心に残りました。赤松さんにとって、伝統的なトルコの針仕事にはファッショナブルでエッジがきいたデザインが隠されており、衰退しつつある伝統的な針工芸に新たな命を吹き込み、異なる角度から皆さんに紹介したいと考えています。

トルコの女性は手工芸が得意で、特に「Oya」と呼ばれるトルコ刺繍が得意だそうです。「Oya」は通常祖母から母へ、母から娘へと伝えられるそうです。かつてトルコの家族は、自分や家族が使う日用品をすべて緻密な技術を駆使して作っていたといいます。古くは、皆で針仕事に取り組みながら、お茶を飲んでおしゃべりをしていたそうです。しかし効率重視の現代社会、一部の大都市では女性が針仕事をしながら、ゆっくり家族と一緒にお茶を飲んだり食事をしたりする光景が見られるのも少なくなってきました。

「WASABI-Elişi」の最も特別なところは、お店で売っている刺繍品が、専業の職人やハンドメイド作家、一般の観光客向けに土産品を大量生産するお店のものではなく、赤松さんが実際にトルコを訪れた時に、現地の伝統的な市場や個人商店で見つけたものです。赤松さんが言うには、以前は「刺繍が上手な人は良い嫁になる」という観念が流行していたので、家族の誰かが結婚するたび、伝統的な女性たちは数十にも渡る大量の刺繍品を作り、夫の家族や親戚に贈っていました。一生使っても使いきれないほどの量の多さに、個人商店に売ったり、友達にあげたりする人もいるそうです。店内の刺繍工芸品は皆素人が作ったもので、一般の観光客がお店では買えない伝統的な工芸品であるだけでなく、1枚1枚少しずつ違っており、唯一無二の価値があります。スカーフとして使うこともできますし、飾りやマスクチェーン、ポーチにも使えます。

また、1階から2階の踊り場には、壁にトルコの伝統的な平織りの織物である「キリム(Kilim)」や絨毯が掛けられています。いずれも長い年月大事に保管されてきたアンティークものです。かつてトルコ系遊牧部族はテント生活なので、床に薄くて軽いキリムを敷いて、年中いつでも使用していたそうです。

トルコの刺繍工芸品の他、「WASABI-Elişi」の店内には、日本のアーティストが作った手工芸品やアンティークも販売しています。2階では季節によって、和洋服・陶器・ガラス・帽子などの異なった分野の芸術家と一緒に企画展示を行って、3階はアトリエ兼体験教室のエリアになっています。以前は「針仕事」をキーワードにパラグアイの「ニャンドゥティ」、日本の新興アーティストなどあらゆる分野の相手と手を組み、毎月・毎シーズンごとに異なった共同展示を企画していたそうです。そのため、いつ来ても異なったアイデアとの出会いがあるかもしれません。

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手作りアイスクリームと濃厚ラテが人気のカフェ2号店「Bole COFFEE & ICECREAM」

「WASABI-Elişi」の斜め向かいにある「Bole COFFEE & ICECREAM」は、先程までのレトロで温かい日本風家屋の醸し出す雰囲気と打って変わって、シンプルでオシャレなコンクリート打ちっぱなしの外観をしています。このお店は日本橋馬喰町の人気カフェ「Bridge COFFEE & ICECREAM」が2023年6月羽根木に開設した2軒目の分店で、同じように美味しいコーヒーと厳選された食材・製造方法で作られた手作りアイスクリームが売りのお店です。

1階は天井が高く開放的な空間になっており、打ちっぱなしのコンクリートと木の質感がお互いによくマッチして、モダンで爽やかな印象を与えます。調理台と椅子の間に空間はなく、バリスタがいるバーに向き合うようにして、ローテーブルと長椅子が置いてあります。店の裏側に面する壁は床から天井まで一面ガラス張りで、光が室内に差し込むだけでなく、裏庭の緑を眺めることができ、視覚的にも非常に開けた印象があります。地下1階は自家製手作りアイスクリームを作っている場所です。筆者が訪れた日は1階のテラス席に座り、緑豊かな風景を眺めながら冷たい飲み物やアイスクリームを食べ、夏の暑さから逃れ、心身ともにゆったり過ごすことができました。

メニューは上の写真の通り、コーヒーとアイスクリームの2枚に分かれています。コーヒーはエスプレッソ・アメリカーノ・水だしコーヒー・ハンドドリップなど様々な種類のブラックコーヒーや、牛乳を加えたラテ・フラットホワイト・カプチーノ・マキアートなどが選べます。手作りアイスクリームは先にシングル・ダブル・トリプルなどの量を決め、そのあと自分の食べたい味、そして最後にコーンかカップかを選びます。毎日約8種類の味を提供しているアイスクリームは、ミルク・チョコレートなど定番の味の他、日本では比較的見ることの少ない「ピスタチオ」・「イチゴルバーブクリームチーズ」・「杏仁アマレットとアプリコット」などの特殊な味を含め、数多くあります。お腹が許すのであれば、全種類頼んで食べたいと思うばかりでしょう。

筆者が訪れた日は、店員のおすすめに従って、アイスラテとピスタチオの手作りアイスクリームを頼みました。コーヒーと牛乳の比率が絶妙なラテを飲むと、灼熱の夏日の午後も不思議とそれほどしんどく感じなくなりました。イタリア産のピスタチオを使って作られたアイスクリームはコーンとの相性もよく、ピスタチオの独特の味が濃厚でありながらも甘すぎず、自然でまろやかな美味しさで、食べ終わった後も飽きを感じさせませんでした。

店内の一角には、スコーンなどの焼き菓子も販売しており、飲み物やアイスクリームと一緒に楽しむことができます。このゆったりとした空間の中で美味しいスイーツを食べながら、優雅な午後を満喫することほど、幸せなことはないでしょう。

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新代田・羽根木を歩き、緩やかなひと時を楽しもう

下北沢からわずか1駅しか離れていない新代田は、活気あふれる下北沢とはまた違った味わいがあります。特に羽根木の一帯は緩やかでのんびりとした雰囲気で、少し街を歩くだけでも晴れやかな気分になります。羽根木の街に潜むお店はどれも個性豊かで、散歩をする中で都会の喧騒から離れ、穏やかな気持ちで日本の日常風景を楽しむことができます。羽根木の街から徒歩10分程度のところには、毎年2月に梅まつりを開催することで有名な羽根木公園もあります。次回京王井の頭線に乗る機会があれば、ぜひ一度新代田を訪れ、ゆったりとした午後をお過ごしください。

▼渋谷駅近くのおすすめホテル:Mustard Hotel Shibuya

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ライター紹介

Fuchi
Fuchi Pan
台湾出身、東京在住。手仕事の器や好きなものに囲まれる暮らしに憧れています。
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