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お醤油のある暮らし:専門のセレクトショップで職人から「醤油」の無限の可能性を知る

昔から日本料理でよく使われている調味料の醤油。大豆を原料として発酵させた醤油は、時間とともに醸造されて風味が深く、健康にも役立ち、日本の食文化と料理の根幹となる重要なものです。実は醤油は醸造方式、色、塩加減などによって分類することができ、更に、調理方法や料理によって、ワインのように使い分けすることができます。今回「Culture of Japan」シリーズで筆者は、東京・銀座にある醤油のセレクトショップ「職人醤油」を訪れ、醤油の達人に、この和風調味料の魅力を聞いてみました。

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醤油とは?

豆を発酵させた独特な香りと風味を持つ醤油は、そのままつける以外に、日本の日常食、例えば焼き物、煮物、和え物、漬物、汁物など、外食レストラン、家庭の食卓を問わず、醤油はどこにでも目にすることができます。

醤油の基本原料は3つあります:大豆、小麦、食塩。日本農林規格(JAS法)では、醤油は大豆を用いて作ることと定められていて、大豆を使用していないものは、醤油とは呼べません。現在、普及している日本醤油の伝統的な製造工程は、江戸時代(1603~1868)に確立されたものです:大豆を蒸し、小麦の炒り、両者を混合して種麹を加え、醤油麹菌を繁殖させ、さらに塩水を加えて「醤油味噌」になります――液体醤油と固体醤油粕が分離する前の発酵したペースト状のもの――日本語では「諸味(もろみ)」と呼ばれています。発酵、熟成、圧搾、火入れ、瓶詰めなどを経て、フレッシュで香りのよい醤油になります。

醤油はプラスチック製、鉄製のタンク、または木桶で発酵させます。主な原料以外にも、一部の醤油商品は消費者の好みに合わせて、製造過程で風味を調整させ、米や甘味成分、甘味料などの合法的な食品添加物を添加することがあります。例えば、日本の九州地方では甘い醤油が好まれており、醤油原料にアミノ酸液(トウモロコシと大豆から抽出した旨味を凝縮した濃縮液)を加えて熟成し、独特の風味をもつ醤油にブレンドすることが多くあります。

日本の文献で最初に「醤油」という言葉が登場したのは、安土桃山時代の1597年に刊行された日常用語辞典『易林本節用集』です。当時、醤油を「みその油(汁液)」と解説していました。現在、日本の醤油の起源は考証されていませんが、一般的に言われているのは、古代中国から醤油の原型である「味噌」の製法が日本に伝えられたという説です。当時の「醤」は、魚醤と肉醤、野菜を塩漬けにした草醤、穀物を塩漬けにした穀醤の3つに大別されていました。穀醤が醤油と味噌の原型だといわれていますが、他にも、味噌桶の底に集まった液体がおいしく、それが醤油の原型だという説もあります。

当初醤油は、西日本で普及し、その後江戸の人口増加と発展に伴い、千葉県を中心とした関東醤油の品質が日々向上し、醤油醸造の中心は徐々に江戸に移りました。また、江戸の人の嗜好に合わせて濃口醤油が開発されました。総務省統計局の家計調査によると、1人当たりの年間醤油使用量は年々減少しています。とはいえ、醤油は今でも日本料理に欠かせない核となる調味料です。

日本発酵食のひとつ「醤油」の良いところ

用途の広い醤油は発酵食品であり、大豆が主な原料です。醤油に含まれるアミノ酸、ビタミン、ミネラルなどの成分は、麹の発酵醸造を経て作られます。これらは、繊細な食感と旨味を織り交ぜるだけでなく、健康面でも多くのメリットがあります。例えば、醤油は腸内環境に良い影響を与える乳酸菌などのプロバイオティクスが豊富で、現在の研究では腸内環境を改善し、免疫力を高めることが分かっているでしょう。そして、醤油醸造中に発生する香り成分の「フラノン」には抗酸化作用があります。

このことから、原料が良く、成分が単純な醤油は、体にとって有益なものと言えるでしょう。しかし、醤油には塩分が多く含まれており、摂りすぎると体に負担がかかります。特に食事で塩分摂取量をチェックする必要がある人は、摂取量に注意するとともに、塩分濃度のやや低い種類の醤油を選ぶことも考えられます。次に、塩分濃度や色によって分類した醤油をご紹介します。

日本の醤油の種類、特徴及び名産地

醤油の印象は、多くは色が濃く、豆類の発酵の風味が強いというものかもしれないですが、実は醤油は分類が極めて細かく、最近では健康志向が強くなっていることもあり、醤油のおいしさと香りを残しながら塩分を減量する減塩醤油が多く出回っています。日本農林規格では醤油の特性や、窒素分(うまみ成分の指標)、色の濃淡などのデータに基づいて、醤油を以下の5種類に分類しています。

溜醤油

大豆を主原料とし、少ない水でうまみを凝縮した醤油。熟成期間はすべての醤油の中で最も長いので、見た目の色が濃く、トロっとした食感で、深い香りがします。たまり醤油は主に日本の愛知県、岐阜県、三重県などの中部地方で生産され、特に愛知県の武豊町が主な産地です。

多くの醤油蔵元(日本語では醸造所)は生産に2~3年をかけます。たまり醤油のうま味の割合はすべての醤油の中で最高レベルです。直につけても、加熱調理、照り焼きだれにしたり、赤身魚の刺身などにしても合います。

再仕込醤油

醸造中に塩水の代わりに生醤油を用い、醤油から醤油を醸造する方式で二度醸造したものであるため、再仕込醤油と呼ばれます。一般的な濃口醤油に比べて、原料が2倍、製造時間も2倍必要ですので、熟成期間が長くなり、とろみがあり、濃厚なうまみとまろやかさがある醤油。

風味と香りのバランスがよく、赤身魚のお刺身にぴったりで、カレーに入れたりステーキに添えたりするのにも適しています。山口県の柳井市が発祥地だそうですが、現在は全国各地に再仕込醤油を製造する醸造所があります。

濃口醤油

新鮮な濃口醤油は赤褐色のきれいな色をしていて、つけ醤油としても、調理にも広く使えます。北海道から沖縄まで日本各地で生産されており、最も一般的で汎用性の高い醤油です。東日本でよく使われており、醤油の市場流通量の8割を占めているそうです。

濃口醤油の製法は江戸時代にほぼ確立され、古くは大豆を主原料とした溜醤油が中心でしたが、その後小麦を加えて作られるようになりました。大豆と小麦の割合が1対1なので、濃口醤油は大豆タンパク質がうまみ成分に、小麦のでんぷんが香りの成分に変化します。熟成期間は各ブランドによって異なり、約半年から2年ですが、醸造過程では、時々諸味をかき混ぜる必要があり、かなり手間がかかります。用途が広く、つけ醤油としても、豆腐にかけてもマッチします。

淡口醤油

西日本でよく見かける淡口醤油。色は薄いですが、塩分の含有量が高いのが特徴です。一般的に醤油は、熟成期間が長く、空気との接触が多く、温度が高いほど色が濃くなります。逆に、熟成期間が短く、低温で、攪拌回数が少ないと色が薄くなります。淡口醤油は濃口醤油の製造過程と似ていますが、色が濃くならないように工夫されています。塩加減を和らげるために米麹を加えるなどしていることがあります。

淡口醤油は、煮物、汁物、玉子焼きなど醤油の色を出さないような料理に適しています。また塩の代わりに使用することができます。淡口醤油を使い慣れた地域では、多くの家庭で淡口醤油と濃口醤油を1本ずつ用意しているようです。

白醤油

淡口醤油よりも醤油の色が薄く、淡い琥珀色の醤油です。一般的な醤油原料は大豆と小麦を1対1にしていますが、白醤油は主に小麦と少量の大豆を使用しています。甘みと香りがあり、熟成期間が短いため、塩分が強く、うま味は抑えられ、食材本来の味を発揮させることができます。

日本では白醤油を専門に製造するメーカーは少なく、大半が愛知県碧南市に集中しています。日本料理では、食材を煮込むのに醤油を使いますが、汁物や茶碗蒸しなど、色が薄い料理に白醤油を使うことで醤油の色がつかず、素材のおいしさを引き立てることができます。オリーブオイルと一緒にサラダドレッシングにも使えます。

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職人醤油松屋銀座店:100 ml小瓶醤油の専門店

一見日常的に見える醤油には、長い歴史と学びがあり、日本の醤油の姿をもっと知るために、筆者は東京・銀座にある醤油のセレクトショップ「職人醤油」に行ってみました。

「職人醤油」は主に100 mlの瓶入り醤油を販売する専門店で、代表の高橋万太郎氏が日本各地を旅している途中、伝統産業や地方産業に携わる職人たちの多くが、自分の作品を誇りに思っているものの、市場では量産品と価格競争に苦労していることを知りました。そこで、この分野の産業に身を投じることを決意しました。

高橋さんは、日本各地の食文化や郷土料理に特色があるように、醤油も同じであると考えています。そして、各地の醤油の魅力を多くの人に伝えたいと考え、日本全国400軒以上の醤油蔵を訪れました。そこで「職人醤油」を設立し、伝統的な醤油蔵のものを販売することにしました。これらは地域の特色と醸造者の個性に満ちていますが、今の人の生活習慣に合わない大容量の瓶詰め醤油でしたので、これを100 mlの小瓶に統一して販売しています。

それと前後して彼はネットショップ「職人醤油」を設立し、地元群馬・前橋市に職人醤油の直営本店を設立し、2016年にはさらに外国人観光客の往来が多い東京・松屋銀座店に直営支店を設立し、醤油の買い手と作り手の間をつなぐ橋になるよう努めています。

この日は平日の午前中に「職人醤油 松屋銀座店」を訪れました。地下2階の食品売り場の店頭には、大きさが同じで、きれいなラベルがあり、ガラス瓶からにじみ出る色が異なる醤油瓶が並んでいます。まるでポケットサイズの醤油博物館のようです。応対してくださったのは、松屋銀座店の毛利店長。醤油のことを聞くと、毛利店長はいろいろなことをお話ししてくださいました。

まず、「職人醤油」は醤油の分類に対して、前述の日本農林規格が定めた5種類:溜醤油、再仕込醤油、濃口醤油、淡口醤油、白醤油に、もう一つ「甘口醤油」を独自に追加しています。九州や北陸など沿岸部では一般的な甘い醤油で、甘さは地域によって異なります。特に焼きおにぎり、卵かけご飯、白身魚生に適しています。上の図をご覧のように、各醤油は熟成期間の長さ、醤油の風味の濃淡と食材の相性の観点から並んでいます。左から順に、熟成期間が最も短いもので半年の白醤油は、食材本来の味を強調するための引き立て役です。熟成期間と醤油の特性は右に行くほど増えていきます。熟成期間が最も長く3年に達し、うま味もたっぷりとあるのが、溜醤油になります。

毛利店長は冗談めかして、実は自分は醤油が好きではありませんでしたが、縁あって「職人醤油」に就職してから、醤油の多様性を認識することができ、今では自宅に15~20種類以上の醤油を常備しているとおっしゃっていました。

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醤油はどうやって選んだらよいでしょうか。

醤油は微生物発酵による調味料で、他の醸造品と比べて人為的な介入要素が多く、各地の醤油はその土地の人の習慣や好みによって多少異なっています。ワインと同じように、様々な地域や人によって生産される醤油には、それぞれの個性とユニークさがあります。例えば、几帳面な醸造者のものは、醤油の食感が繊細で落ち着いていますし、個性的で情熱的な醸造者の醤油からは、はっきりとした活気を感じることができます。

作り手も、それをいただく人もそうです。食べる人が違えば、あるいは食事をする環境が異なれば、おいしさに対するこだわりと定義は同様に少し異なります。例えば、同じ刺身を食べても、赤身魚と白身魚にはそれぞれ相性の良い醤油がありますので、おいしい醤油の選び方は一概には言えないでしょう。

毛利店長に、初心者は醤油をどうやって買えばよいか聞いてみたところ、こんな答えをいただきました。醤油の大きな特色は、「つけ醤油用」、「かけ醤油用」、「料理用」など用途によって細分化できることです。まず自分が使いたい醤油をはっきりさせることです。保存用の漬けだれとするのか、あるいは料理にかける用途か、料理に入れて調理する(あるいはその両方)ということです。また自分が好きな風味に合うようなものを、「職人醤油」のお店の人に勧めてもらってください。

使い方がわからない場合は、「職人醤油」の醤油の紙パッケージに描かれたかわいい料理や食材のイラスト、高橋万太郎さん、毛利店長などからスタッフのおすすめのフレーズも参考にしてください。これらは、使う人が醤油ごとに適した食べ方を直感的に理解するのに役立つはずです。

平日でしたが、取材中も続々とお客様が来ていました。毛利店長によると、日本人お客様の多くは、すき焼きに適した溜醤油を購入して、昆布や鰹節の出汁を加えたり、卵かけご飯に適した専用醤油を購入したり、赤身魚や白身魚をつけるための再仕込醤油や淡口醤油をそれぞれ買ったりしているそうです。甘口醤油を指名する九州のお客様も少なくありません。コロナ前には、店にはしばしばアジアや欧米からの観光客が訪れていましたが、取材の日は、香川県小豆島の「ヤマロク」の2種類の醤油を注文していた欧米人のお客様を見かけました。

「職人醤油」のおすすめ醤油と食べ方

取材当日、毛利店長に個人的にお薦めの3種類を左から順に挙げてもらいました:

淡紫:兵庫県末廣醤油の特製低塩「淡口醤油」。老舗醸造所ではたっぷりの米麹を使用して淡口醤油特有のまろやかな風味を作り出しています。色の香りがちょうどよく、かけ醤油に適しており、食材本来の味を引き出すことができます。繊細な風味で、絹ごし豆腐や、鯛、ヒラメなどの白身魚、貝柱や甘エビなどの刺身に使うのがおすすめです。あっさりと食べたいなら、肉や餃子の本来の味を味わうときにも使えます。

平右衛門:福島県鈴木醤油店が天然木桶で醸造した「濃口醤油」は、醤油を作る過程がすべて手作業で、大豆を蒸す木桶も自家製です。香りが上品で、温かみのある甘さが特色で、最初は熱々の白いご飯に少しだけかけて、かけ醤油の方式でシンプルに味わうことをお勧めします。

三年熟成しょうゆ:島根県奥出雲町の森田醤油の「再仕込醤油」。奥出雲町は冬になると大量の雪が降る豪雪地帯です。子どもから大人まで安心して食べられることを目指して、原材料に特にこだわりを持っています。再仕込醤油特有の濃厚で深みのある旨味のほか、すっきりとした後味があります。炒め物に少し加えてコクと旨味をプラスするのに適しているだけでなく、そばつゆにいれて、奥深い味わいを感じることもおすすめです。

醤油と黒がイコールという既定のイメージを覆し、近年話題となっている「透明醤油」。熊本県のフンドーダイで作られた新世代の醤油も「職人醤油」で販売されています。主に濃口をベースにして、蒸留の加工工程を通じて、本醸造醤油の風味を残し、醤油の色を取り除いています。色がまったくつかないので、和食でも洋食でも使え、隠し味として幅広く使用できます。

筆者の個人的なおすすめ

筆者は再仕込醤油と白醤油に興味があったので、毛利店長のおすすめで上記の2本を購入しました。1つ(左)は愛知県の七福醸造で製造された有機JAS認定の白醤油で、圧搾機で汁を取るのではなく、自然抽出で作られているため、緻密な甘みと上品な塩味は、また食べたくなります。もう一つは、先に紹介した「三年熟成しょうゆ」(右)で、期待通りの深い味わいに加えて、すっきりとした後味がさらにすごかったです!木綿豆腐、赤身魚の刺身、揚げ物と組み合わせてみましたが、どれも相性はバッチリでした。

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日本料理の中心の一つである醤油

大豆、小麦、塩、麹などのシンプルな原料だけで、長い年月をかけて洗練され、凝縮された醤油は、昔から日本の食文化に欠かせない中心的な調味料です。しかし、醤油の活用の可能性はそれだけではありません。今回「職人醤油」を訪れてみて、醤油と食材の組み合わせの可能性は、想像をはるかに超えていることに気づきました。次回日本を訪れる機会があれば、「職人醤油」に足を運んで、自分にぴったりの運命の醤油を探してみてはいかがでしょうか。

この記事に掲載されている情報は、公開時点のものです。

ライター紹介

Fuchi
Fuchi Pan
台湾出身、東京在住。手仕事の器や好きなものに囲まれる暮らしに憧れています。
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